これを『観測』するあなたへ 「これを『観測』してはならない」
これより始まるは、Intermission。幕間の物語。
ユウくんの旅の向こう側に拓けた、「可能性の未来」のお話。
セカンドラプターさんとミズハさんが繰り返し『観測』し、ウィルお兄さんたちが苦心して『護り通し』。
あたしが加えて『修正観測』した、「やがてくる未来」に至るまでの出来事たち。
戦士たちは幾度も『観測』するために、不都合や矛盾が起きないように。
できれば誰にも正体を知られてはいけないから。
特にユウくんを知る者には、断じて知られてはいけないものだから。
あたしたちは、確かにそこにいるけれど。
この物語にはほとんど、影も形も姿を見せないのです。
あたしにとっては、既に終わってしまった「過去」。
けれど。
あの絶望の時代に生きた者たちにとっては、何としても辿り着きたかった「未来」。
運命の「あのとき」へ。
この宇宙は特異点を中心として、「事実」は常に揺らいでいます。
あたしが無事に生まれてくるかどうかさえ、常にわからないのです。
果たして。
今こうしてこれを綴っているあたしは、何番目のあたしでしょうか。
あたしは、どうしても怖くなるのです。
あたしは、本当にあたしなのでしょうか。
あたしは、あたしのままでいられているのでしょうか。
ユウくんが繋いでくれた「未来」にある、ちゃんと愛されて生まれてきたあたしでしょうか。
知らず【運命】の手先となって、望む「未来」を壊そうとしてはいないでしょうか。
……あるいは、いつかどこかで絶望したあたしが。自ら望んでそうしてはいないでしょうか。
きっと、そうではないと信じます。
ユウくんの主観における旅を経て、それを誰かが『見届ける』ことで。
初めて「可能性の未来」は、確定します。
この必要な行為は、一度だけで終わることはありません。
たぶんですけど。無数に「戦い」は繰り広げられています。
繰り返し繰り返し、時の円環を繋ぐ「終わらざる戦い」。
諦めてしまった誰かの数だけ、「可能性」の蓋は閉ざされてしまうのでしょう。
【運命】は。『光』は。
決してここまでも、その先へも辿り着かせないように。
執拗に悲劇を引き起こし。乱暴にユウくんの成長を歪めようと、物語を「あるべき姿」に歪めようとして。
あの奇跡の力が、ただ女の子になれるだけのものであると騙そうとして。
あれがどれほどの切なる願いと祈りによって生まれた奇跡であるかを、決して悟らせないように。
『始まりのフェバル』アルを介して、ウィルお兄さんさえも利用して。
はじめはか弱く、戸惑うばかりのユウくんをひたすらに映し出して。
これが取るに足らない、もしくは見るに堪えない。
『観測』すべきでないものと、見せようとしています。
そうしていつまでも救われない、苦しみと絶望のうちに沈んでいくあたしたちを当然のこととして。
『光』もまた何より深く絶望し、「定め」のままに何もかもを捨て置こうとしているのです。
「本来」の【運命】を乗り越えて。
足元のおぼつかない現在を結ぶもの。
ただでさえ放っておけば、「約束された」絶望へ向かう物語を。
このままでは『光』に閉ざされて、続きの語るべきところさえなくなってしまう悲劇の物語を。
揺らぐ足元を、望みのある形で繋ぐためには。
誰かが。見届けなくてはいけません。
事によっては、あの二人が生きて参加することが叶わないこともあるでしょう。
あたしだって、生まれていないかもしれない。
生まれていたとして、やはり無事では済まないかもしれません。
でもね。
あたしは、負けたくないんだ。叫びたいんだ。
まだ終わってないよ! 繋がっているんだよ! って。
だから。
お願いします。誰か。
この真実を知る、誰かが。
ユウくんの。彼(彼女)の足跡を、見届けた者であるならば。
今なら、この「未来」も見えるはず。
これを『観測』するあなたへ。
本当にいるのかはわかりませんが。届くと信じます。
きっとそこにいるあなたへ。
――ありし日の記憶を呼び覚ませ。
《クロルマンデリン》
今ここに、「定められた」【運命】の向こう側にある「一つの可能性」を示します。
あたしたちが何としても護りたいと願った、その先の日常を見せたいと思います。
フェバルとは、一つの世界に留まることを許されない。
だから「本来」、決して観ることの叶わないものを。
『異常』であるあたしたちであれば。これを『観測』するあなたならば。
ユウくんもまだ知ることのない、彼(彼女)の過ぎ去った明日を。
そして「やがてくる未来」の戦いを。
どうか。見届けて下さい。
どうかユウくんを、助けてあげて下さい。
お願いします。お願い――
【】
「」
《》
――――
「これを『観測』してはならない」
***
――ここで、途切れている。
記 アニエス・オズバイン




