表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

614/711

83「今は眠り続ける者と、やがて地上最強を継ぐ者」

 新藤 ミズハ――インフィニティアは。


 トレイターと最期のお別れを、笑顔と和解の形で済ませることができていた。

 現実世界へ通ずる『穴』を開け切った彼は、すべての願いを託してこの地上を去る。


『ありがとう。一足先に僕は行くよ。後は頼んだ』

『ええ。さようなら。後のことは任せて』


 トレイター――ノブオさん。


 トレイターなんて。インフィニティアなんて。

 大いなる役割のため精一杯気取って、カッコつけてみても。

 私たちって結局、日本人だもの。本当はありふれた、ごく普通の名前。

 最後まで希望の未来と人の可能性を信じ抜くことが。

 あなたの本当の名前であり、本当の姿。

 それもまた、小さな裏切りだったのかもしれないわね……。


 大丈夫。先に楽園で待っていてね。

 この戦いは、私が立派に継いでみせるわ。

 もう望んで残酷なことはしなくていいんだもの。ここからは私の得意分野。

 やがてくる未来に、精一杯備えて。


 ただちょっと……あなたとは違って。格好はつかないんだけどね。


 肉体はこのまま海の外へ放ってしまえば、即死してしまうほど深く傷付いたままであり。

 残滓となった『彼女』のかすかな癒しの力では、まだまだ回復まであと何年かかるかわからないと言ったところ。

 それでも前を向き、いつか復活することを諦めない。

 強い決意を秘め、今は眠り続けるミズハ先生に。

『彼女』は温かな笑みを向けている。


『今はゆっくりおやすみ。いつか目の覚める、そのときまで……』



 ***



 あれほどの大事件があったというのに。人は反省を忘れてしまう愚かな生き物である。

 TSPなき世界において、再び恐るべき兵器を蘇らせようと企む者は必ず現れる。

 しかしそうした不届きを企てた者はすべて、非業の死を遂げていた。

 あの年の5月10日、時の政府関係者が次々と謎の不審死を遂げたことにもなぞらえて。

 トランセンデントガーデンの呪いなどと、巷では噂されていた。

 真実は――。


「いけないなあ。おいたが過ぎるぜ。アンタ」

「ぐ……!」

「節度ってヤツはしっかり守ってもらわねーとさ。わかるだろ?」


 彼女は告げる。

 知る者が聞けば、誰もが畏れるその名を。


"I'm 'the' Second Raptor."


 受け継ぐ者としての自負を、たっぷりと名乗りに込め。

 そして、獰猛に笑い。


"Bite you!"


 世界に仇なす敵を、討ち滅ぼす。


「ふう。一丁上がりだ」


 すっきりといい汗をかき、一仕事終えたセカンドラプターは。

 今日も守られたのどかな地上の空を見つめて、穏やかに微笑む。


 ただ一つ、苦い宿題が彼女には残っていた。


「しかしまいったぜ。執念で風景記憶を手掛かりに、やっとアイツの家を見つけ出したってのによ」


 とっくに売り払われちまってるんだもんな……。

 頑張って戸籍情報を調べたが、外から調べてわかるところでは限界があった。

 星海 ユウなんて名前のヤツが、どこにもいないんだ。

 彼女は大いに頭を抱えたが、真実はさほど難しい話ではない。

 田中家が遺産目当てに彼を養子に引き取った時点で。戸籍情報が星海 ユウでなく、田中 ユウになってしまっているからなのだが。

 星海 ユナが極めて慎重に、世間には一切知られないように活動していたことが仇となっていた。

 よりにもよって彼女の関係者は、政府関係者も含めてことごとくが非業の死を迎えている。これでは辿りようがない。

 どうあっても小さな彼に自分を接触させまいという、何か【運命】めいたものすら感じさせられる。

 実際、そうなのだろう。

 それはおそらく、覆すことのできないえげつない何かなのだろう。


 だからせめて。セカンドラプターは、自分にできることをする。

 いつかそのユウとやらが旅立った後に、本当の戦いが待っている。

 やがてくる未来に備えて、彼女がやってきたことは。

 何も地球の日常を裏から支えるダークヒーローだけではない。


「くっく。オレって結局、アンタの足跡を綺麗になぞっちまってるんだよな」


 ああ。でもこれは、あんたの幻影を追いかけているわけじゃないんだぜ?

 結果として、やることが同じでも。同じ道を行くものであっても。


 この意志は、この時間は――オレだけのものさ。


 人は何が先に待ち受けていようと。

 今この瞬間は自分の足で立ち、前を向いて生きていけるんだ。


 なあ、そうだろう? シェリル。ユナ。


『神の穴』を前にして、セカンドラプターは大きな期待と一抹の畏れを胸に猛き笑う。


 さて、今度も武者修行といこう。

 次はどんなおもしれえ旅が待っているだろうか。


 彼女自身は知る由もなかったが。

 完全なる『異常生命体』となった彼女には、もはや定められた成長限界など存在しない。

 異世界という恵まれた環境で、彼女は水を得た魚のごとく。許容性限界を遥かに超えて、飛躍的にその実力を高めていった。

 そうして揺るぎなく、やがて『地上最強を継ぐ女』として。

 異世界仕込みのガンスリンガーは、今日も核なき世界のため。またやがてくる未来に備えて。

 陰ながら活躍し、地球の平和を守り続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミズハさん、復活へ眠る。2人とも日本人だったのですね。 売り払われた家の地下、武器庫だが大丈夫なのか。 暗殺に勤しみつつ筒異世界を楽しむセカンドラプターちゃん、生き生きしていますね(いずれリルナ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ