64「明日から雨が降るよ」
[5月8日 18時42分 東京 病院]
シュウは会社へ頭を下げ込んで、ここしばらくは長期休暇を取っていた。
事情が事情なだけに、会社も快く許してくれた。今はなるべく付きっきりでユナの看病を行っている。
点滴に繋がれ眠る彼女へ優しく語りかけるように、彼が言った。
「明日から雨が降るよ。まるで世界が涙しているようだ」
天気予報は、続く5月9日~11日まで、3日連続の雨を伝えていた。
普通なら五月晴れの季節なのに。審判の日5月10日へ向かって空も沈んでいくようで、気が滅入る話だね。
そんな気分になるのは、もちろん天気のことばかりのせいではない。
みんな、遠くへ行ってしまった。
僕はあえて深くは首を突っ込まないようにしていたから、何があったのか詳しくは知らない。
君のことを敬愛していた。本当にいい人たちだったのにね……。
「ユウもクリアもまだ、見つかってないよ」
ただ、根拠はないけれど。まだ無事な気がしてならないんだ。
親心にただ、そう信じたいだけなのかもしれないけどね。
「そうだ。今日もあの二人はお見舞いに来てくれたよ」
セカンドラプターさんと、シェリルさん。
二人は無事で、元気に毎日会いに来てくれる。
英語しか喋ってくれないから、コミュニケーションにも一苦労だけどね。
このところACWが活発化したり、謎の赤目女が暴れているんだと。
もう誰も指揮する人がいないのに、自ら東京中駆けずり回って戦ってくれているんだ。本当にすごい人たちだよ。
そして、君が目覚めるのを待っている。
「本当はね。君にはもっと、自分を労わって欲しかった。君が傷付き倒れるところなんて、見たくなかったよ。君はいつも無茶ばかりするから、いつかこうなるんじゃないかって心配してた」
それでも僕は。君が戦うのを止めることはできない。
そんなことは絶対にしたくないんだ。
だって君は。
「君は、みんなの希望だから。いつも太陽のように、強く明るく輝いて。誰かの光に頼らなくたって、君自身が周りを照らしてくれる。誰の手でも引っ張って、そして前へ進むんだ」
そう。君は強いから。
でも僕は知っている。滅多なことでは、決して見せようとはしないけれど。
君のその強さの裏に、本当は繊細な心や弱さが隠れていることを。
それでも君は、どんなときだって。強く気高く振舞おうと、自分を英雄のように振るい立たせるんだ。
君は化け物だって、色んな人によく言われる。誤解されてきた。
ユキエ義姉さんなんてなまじ子供のころから近くにいたから、君のことはずっと畏れるような目で見てる。
けどそんなことないよな。君は誰よりも人間さ。
強さと弱さをどちらも持っていて。時に厳しいけれど、本当は優しくありたい人なんだ。
きっかけは一目惚れだったかもしれない。けれど。
「そんなところが。だからもっと好きになったんだよ。僕はどうしても君を支えてあげたいと思ったんだ」
なのに結局は、こうして見守ることしかできなくて。
帰る場所を守ってあげることも、今はできてなくて。
情けないよな。子供たちも、自分では見つけられない。
こんな体たらくで、ただ願うことしかできないけれど。
「僕はね……僕もだな。信じているんだ。君は負けやしないって。何があっても、決して諦めたりはしないんだって。みんなきっとそうやって、君に託したんだよ」
熱い眼差しを向け、歴戦で傷んだ黒髪をそっと撫でる。
「負けるな。ユナ。帰ってくるんだ。僕に戦う力はないけれど、いつだって君の側にいるから」
最愛の妻の復活を固く信じて。
今は弱々しい彼女の手を、ずっと握っている。




