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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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60「NAAC立ち入り調査 2」

[5月3日 13時15分 NAAC]


 特殊合金に覆われた要塞のような外観を眺め回して、セカンドラプターは胸糞悪く吐き捨てた。


「わかってみりゃ、これ見よがしじゃねーかよ。贅沢に装いやがってよぉ」

「だから私たちも……ここには手を出さなかった」


 TSPを保護・研究するというお題目を「なぜか」信じ切っていたから、あまり攻撃する意味を見出していなかったということもある。

 もしACW製造プラントのようにこの組織の真実を知っていたとしたら、皆何を置いても真っ先に攻撃対象としていただろう。

 今や諸悪の根源のような場所としか思えない。


 二人とも日本の事情にはさっぱり詳しくないが、タクに聞いたところでは、ゴールデンウィークという祝日であるらしい。

 だがTSP関連施設に休日は存在しない。審判の日が近付くにつれ、TSP検査と隔離運動はなお一層盛り上がっている。

 なので当然、NAACもフル稼働しているものかと思われたが……。

 まるで不気味なほど静かだ。人々の認識から外れているのかというほど、まったく出入りもない。はっきり言って異常だった。

 物々しい雰囲気を纏いつつ、しかしACW製造プラントと違ってシャッターで閉じられても施錠されてもいなかったので、二人は易々と突入することができた。

 入って来いと言われているようで気持ち悪かったが、勇気を持って飛び込むしかない。

 まず迎えたのはロビーであるが。目の前の人物にはぎょっとした。


「イラッシャイマセ……イラッシャイマセ……イラッシャイマセ……」


 虚ろな目でうわ言のように小声でぶつぶつ繰り返すだけの、瘦せこけた受付嬢の姿がそこにあった。

 さらに向こうへ目をやれば、狂ったように同じ場所だけを履き続けている清掃員までいる。

 二人は絶句し、目を見合わせていた。

 趣味が悪いというレベルじゃない。ホラー映画の舞台か何かか。

 だが特段害があるわけではない。救いようのない彼女らに引いた視線を向けつつ、クリアリングを徹底して各部屋を調べていく。

 最上階では、黒幕の一人と目された男があっさりくたばっていた。


「コイツだ。本郷センター長」

「死んでいる……」


 頭部に銃創があることから、彼は拳銃で頭蓋を撃ち抜かれて死亡したようだ。

 既に死後数日は経過しているとみられ、遺体は腐り始めていた。

 資料を漁ってみるが、わかりやすい場所に目ぼしいものはなかった。

 この調子では、どれほど証拠が残っているかわかったものではない。


「しくじったか? 恐れて慎重に行き過ぎた。もう撤収した後だったのか?」

「いや……早合点してはいけない。ここは巨大研究施設。建物が残っている以上、すべての痕跡を消去することは……物理的に、難しいはず」

「そういうことができる能力者だったりしてな」

「だったら……どうしようもない」


 その可能性もある気はしてきたが、いったんは考えないようにする。

 ユナのヤツならこういうとき、次はどうするか。

 セカンドラプターは考え、セオリー通り地下への道がないか探ってみることにした。

 彼女のように床を直接くり抜いたりはできないが、適宜タクのサポートを受けつつあちこちを調べ回り。

 とうとう地下への隠し扉を発見した二人。ついに当たりを見つけたかと思われたが。

 だがACW製造プラントと違って、地下へ潜っても残念ながら本質的な進展はなかった。

 そこにはいかにも何かありそうな雰囲気を漂わせておいて、しかし実際には何もなかったのである。

 あからさまに時間稼ぎになりそうな、それっぽいダミー資料ばかり大量に配備されていた。

 おかげでたっぷり数時間もかけて外れくじを引かされたセカンドラプターは、ブチ切れていた。


「クッソ! 時間ばっか無駄に取らせやがってッ!」

「本当に……何も無いのか……?」


 不自然に地下の真ん中だけくり抜かれたようにスペースが空いているが、しかしそこには何もない(・・・・)

【知の摩天楼(インテリジェンス=スカイスクレーパー)】を使ってまでタクにも調べてもらったが、本当に土塊しかなかった。

 しかし……本当に不自然だ。

 一同、言いようのない違和感を拭い去ることができなかったが。

 だがそれが果たして何なのか、どうしても辿り着くことができなかった。



 ***



 実のところを言えば、本当にひどいオチなのである。


 彼女たちは、正解には辿り着いていたのだ。

 しかし彼女たちでは、その「ずれた」世界を知覚することはできないのである。

 有田 ケイジ――アルの依り代は、異相世界のNAACに重要施設のすべてを置いていた。

 ほとんどあらゆる者は気付くことさえあり得ない、地球上で考え得る限り最強の隠れ蓑である。

 トレイターが知覚できる程度の『異常』を、彼が見逃すはずがなかった。

 本来『異常』とは見つけ次第潰すものであるが、彼の本体が傷付き未だ宇宙に帰還できない以上、今は利用できるものはするだけである。

 ACWのことを感付かれた際、彼はすべての表の証拠を消し去り、自らは「そこ」へ安全に退避した。

 血眼で自分を探す女バーサーカーどもの相手など、わざわざ直接してやるはずがないのだ。

 やれば万に一つを除き亡き者にできるに違いないが、凶弾の一発で倒れる只人の身に、無駄なリスクを背負うことはまったくスマートではない。


 そして彼にとっては、この数時間だけ二大戦力を釘付けにしておけば、それで十分だった。


 頃合いだ。



 ***



[5月3日 17時21分 NAAC付近]


「仕方ねえ。ぼちぼち帰るとしようぜ。次の手を考えなくちゃならねえ」

「そうだな……」


 地上に戻ったセカンドラプターは、通信機を入れる。タクの野郎に帰還報告をするつもりだった。

 しかし、繋がらない。


 また通信障害か……?


 いや、それにしては妙だ。ザーザー音がでかい。


 まさか。何が起きてる!?


「タク。おいどうした!? タク! 応答しろ! タクッ!」

「おい……! セカンドラプター!」


 シェリルの焦燥し切った声に、はっと顔を向けると――。


 帰り道の途上、ずらりと並ぶは鋼の戦闘車両。

 ACWが大量配備され、こちらへ面制圧を仕掛けて砲塔を向けていた。

「誤射」などで片付けて良いものではない。完全に殺しにかかっている。


「オイオイオイ。随分と手厚い送迎じゃねーの。NAACさんよぉ!」

「来るぞ……!」


 そしてなし崩し的に戦いが始まり――辺り市街地は戦場と化した。

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