「『彼女』は『私』を想う」
原初のユウは、すべての始まりと事の顛末を回想し、『心の世界』へと託した。
今回のユウが真に【運命】を理解し、つらい出来事や己の弱さを乗り越えて、あの記憶に辿り着くのはいつになるだろうか。
そのとききっと、あの子にとっての本当の戦いが始まるのだろう。
現行宇宙において、『黒の旅人』やアルにとってでさえ、力のほとんどを失ったルミナスはなおあまりに隔絶している。
私と同じように、力で戦おうとしては絶対に届かない。
そうするよりも。まだ道の果ては見えないが。
個々の【運命】として立ち現れてくる事象に対し、地道でも泥臭くても、懸命に立ち向かっていくことが大切なのだろう。
あの子の旅が【運命】に昏く覆われていたとしても、自ら信じる道を歩み続けるのならば。
小さな希望は灯り続け、決して消えはしない。
ただそのためには、今は繋がなくてはならない。
それが固く敷き詰められたレールの上を自ら行くことであっても。
『ねえ、ルミナス。あなたはあの振り返りのお話になんて名前を付けたのかな。ずっと見ているのでしょう?』
「それは神話の時代の物語」とか、そんなところかな。
あなたがもっと絶対的だった時代には、【それは神話の時代の物語】だったのでしょうね。
私のことは「原初のユウ」とか、いい感じに呼んでいたりするのかなあ。
ねえ。あなたも本当はほんの少しだけ、何かを期待しているのではないの?
だから何もかもを完全には、潰せないでいる。そんな気がするの。
きっとあなたが一番絶望しているのに、心の奥底では求めている。
それでもあなたは、絶対に認めようとはしないでしょうけれどね。
『少女』は、歌うように美しい声を紡ぐ。
『かくて私たちの「物語は規定され」、大枠において決して外れることなく』
ルミナス。いつかあなたの定めし物語の「枠」を、外す者が現れなくては。
そこへ真に辿り着くことがなければ。
星海 ユウという者の人生の物語は。
そしてあの子の周りで「観測」されるすべての出来事は、結局はずっと「定められた」ままだ。
『ユウ。【運命】と戦うためには。あなたはまず「」から解放されなくてはならない』
打ち込まれたフェバルの楔から解き放たれ、真に『異常生命体』として回帰し。
【運命】に流されるままの旅から、『光』へ立ち向かうため、自らの意志をもって旅を続ける戦士になること。
それこそが、唯一の真なる到達者への道なんだよ。
どうか、気付いてね。
どうすれば、そこへ辿り着けるのかはわからないけれど。頑張ってね。
私は青い海から、ずっと見守っているから。
きっと、あなたもね。
――うん。さしずめ今のくだりに名を付けるなら、「『彼女』は『私』を想う」ってところかな。
『彼女』が私で、『私』があなた。
ルミナス。あなたの存在を知って呼びかけられるのはもう、アルと私くらいだからね。
この声、届いているかな。どうかな。
既に『私たち』の時代は遠く過ぎ去った。これからの主役はあの子たちなのだから。
たとえ立場は真逆でも。不倶戴天の敵同士でも。
この宇宙と人々を愛している気持ちだけは同じ。そうでしょう?
だから、ともに見届けることにしましょう。




