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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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「それは神話の時代の物語 ― Fable long long ago ― 5」

 ただ一人最終戦争を観戦していたアルは、当時のことをこう振り返る。


 あれはまさしく、神話の時代の戦いであったと。

『女神』と並び称される二者の、神々の激突であったと。


 一切手出しはできなかった。

 フェバルの中で最強たる彼をもってしてもただ祈り、主の勝利を願って行く末を見守ることしかできなかったのである。

 戦いの委細を語るには、双方ともにヒトのレベルからはあまりにも隔絶していた。

 それはまったく概念的で、極めて抽象的で、我々の意味で戦闘と呼べるものですらなかった。

 あまりにも理解の範疇を超えていた。


 ただ結果として起こったことだけならば、述べることはできる。


 まず、『(彼女)』が地球へ到来するために開いた通り道であるが。

 それは異なる場所を意のままに繋ぐもの、「閉じた宇宙」をどんなに繰り返しても未来永劫存在の消えない穴となった。

 さしずめ『神の穴』と言ったところか。

 毎度(・・)宇宙の繰り返すたび、彼は【神の手】でその『穴』を封じ、誰にも使えないよう手当するのが、ルーティンワークの一つとして付け加えられた。


 そして、宇宙の中でも特に許容性に恵まれ、あらゆるリソースにも格段に恵まれた地球という星であるが。

 神々の戦いの余波は、この地をまったく不毛の星へと永久に変えてしまった。これも同じく、繰り返しを経ても消えない傷である。

 物理関連の最低限の許容性と、ごく小さな気力許容性を除くあらゆる許容性は尽き果て、豊かなリソースもほとんどが失われた。

 ただ、星海 ユウが確実に生まれ出づるために過不足ないだけの発展と衰退が約束された。

 こうしてかの地は、低い文明レベルと不自由に満ち、それに由来する下らない差別や争いの絶えない、救えない星になってしまった。


 死闘の果て、最終的に『(彼女)』は打ち勝ったが、果たして勝利と言えるものかは極めて怪しかった。

 星海 ユウは力尽き、星脈に堕とされて【運命】で縛り付けることには成功した。

 以後は何度生まれ変わって来たとしても、『(彼女)』の下に従うことになる。

 だが彼女に内包された星脈のコピーを消すことは……ついに叶わなかった。

(彼女)』が損耗を極め、もはや自ら創り出した星脈と同等のものを取り壊すだけの余力がなかったからである。

 ただその運命を方向付けてやることしかできなかった。

 こうして星海 ユウは、フェバルとしては規格外の【神の器】を持つ存在のまま。

『始まりのフェバル』たる彼に代わり、最強のポテンシャルを秘めたフェバルとして、彼らの後列に加わった。


 そして『(彼女)』もまた力をほとんど失い、もはや二度と宇宙に顕現すること敵わなくなってしまった。

 星脈の向こう側へと引き籠り――彼方より、辛うじて【運命】だけを維持し。

『光』であまねくすべてを照らしながら、皆を見守るだけの存在になった。


 こうして、神話の時代は終わりを告げ。


 もはや『(彼女)』を直接見ることも叶わなくなったアルが、宇宙の管理者として絶対の力を振るう――超越者の時代がやって来る。


 以後、星海 ユウという存在は。決して誰とも絆を結べぬよう。

 万が一にも、何があってもあの【神の器】に『(彼女)』を脅かす可能性の力を満たせぬように。

 徹底して、残酷で苛烈な【運命】を与えられることとなった。


 星海 ユウはもう、女の子として生まれてくることはない。

 彼は必ず、自ら子をなすことのできない男子として生まれてくる。

 彼と親しくなった者は、必ず悲劇のうちに死ぬ。

 彼はいかなる世界をも、深く関わった誰をも本質的に救うことはできない。


 そうして可能性の力を削ぐ方向へと、絶望させる方向へと。

(彼女)』に後を託されたアルは、『彼女』にやられた分も含めて、とことん意趣返しをした。

 何も知らぬ彼を、執拗に残酷に追い詰めた。

 最果ての刻、再びダイラー星系列の中心で相まみえたとき。

 アルはいよいよ宇宙が潰れるそのときに、ユウを巨大ブラックホールへ叩き落として消滅させたのである。

 かくして復讐は完璧に成ったはずであった。

 だがしかし、今度はやり過ぎてしまったようだ。

【神の器】に蓄積された怒りと恨み、そして執念が、次の周回においても消えることはなかった。

『彼』の執念は、新しい星海 ユウを完全に乗っ取ってしまった。未発達の肉体を除けば、実力もほとんど引継ぎである。

 それからは、何度繰り返そうとも。『彼』の怨念じみた執念は決して消えず。

『黒の旅人』という新たな、別ベクトルの怪物が生まれてしまった。

『彼』は孤独を極め、ひたすら憎悪と殺意で【器】を満たし。

 あるときアルの黒性気さえも学び取った結果、彼と本質的には同質の存在にまで至った。

 あたかもちょうど『彼女』が、『(彼女)』とほぼ同質の存在であったように。

 それでも、実力においてはずっとアルが圧倒し続けていたが。

 繰り返し繰り返し、凄まじいまでの執念によって。『黒の旅人』は周回を経るたび、わずかずつながら力を増し続けていく。

 いつしか次の星海 ユウを乗っ取るまでもなく、『彼』は宇宙の終焉に合わせて外側へ退避し、次の宇宙へ自ら飛び込む力までをも手に入れていた。

 アルを除いては、周回を超えてなお「閉じた宇宙」の中で生き続ける唯一の存在となった。


 そして、『彼女』の時代の()から数えて今回(・・)までに続く897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089の周回において。

『彼』とアルは、永きに渡る因縁の戦いを繰り広げていくことになるのだが……それはまた別の時代の話である。

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