【それは神話の時代の物語 ― Fable long long ago ― 4】
『光』は、『彼女』の手で深刻に傷付き、魂までも消え尽きようとするアルをとても痛ましく思った。
自らを少し分け与えてまでも、『光』は彼の完全復活――それもより強靭なる存在としての再誕を願った。
存在の力をわずかに削り、願いは果たされた。
『う……』
――――。
『……あなたは。どうして僕などにここまでするのか』
――――。
『そんな……! とてもとても……あまりにも、畏れ多いことだ』
――――。
『嫌な予感がすると。そう仰るのか』
――――。
『いけない。あなたは未来永劫我々を照らし、導かなくてはならないお方だ!』
――――。
『ですが!』
――――。
『……くっ。承知、しました』
『光』の決意が固いことを思い知り、彼はただ受け入れるしかなかった。
『もしものときは、この僕が後を継ごう。管理者としての務めを果たす。誓って、全身全霊をもって』
――――。
『しかし僕はただ、あなたのもとで【神の手】を振るうだけだ。あなたこそがすべてを照らすもの。我々の創造主なのだから』
――――。
始まりにして唯一の従者たるアルへ、万一後のことは託し。
『光』としては初めて、おそらく最初にして最後のことであるが。
『彼女』に挑まれし戦いを受けることを決断した。
宇宙の行く末を占う最終戦争が、幕を開ける。
***
地球。
かつて『彼女』が生まれ、暮らしていた世界。
いかに栄えども。盛者必衰の理。遠い時の果て、ついには滅びて。
遥かなる時を経ての里帰り、『彼女』は感傷に浸っていた。
『ここもすっかり寂しい場所になってしまったね』
人類はおろか、生命の痕跡ももうどこにもない。
辛うじて、変わり果てた海だけがそこにあった。
寿命の尽きかけ膨張した太陽が、空を覆うばかりに迫っている。
じき大地は砕かれ、この海すらも蒸発するだろう。
もっとも、その自然の成り行きを迎える前に。無事で済めばの話だが。
『光』は間もなくここへ顕現するのだと、未来は既に占われていた。
『光あるもの』よ。お前と相まみえるのは初めてのことだね。
やっと。やっとだよ。ついにここまで来た。
いかに神に近くとも、私はこれからほとんど同質の存在に挑むのであって。
敵は全知全能の神そのものではないのだから。
『私たちは今から戦う対等の相手。ねえそうでしょう』
なのに片方だけ『光あるもの』なんて。いかにも抽象的で。つまらなくて。
語りかけるべき名もなく。神のように敬っていては、まるで話にならないから。
『だから。あなたにも相応しい呼び名を与えよう』
かつてこの星が在りし日。
『彼女』の生まれた時代に最も使われていた英語、さらにその源流となったラテン語から取る。
『光り輝く』の意味を持つ言葉――Luminous。
事実上この瞬間から、逆説的にフェバル(Fated by Luminous)の呼び名は確定したと言えるだろう。
それまで『光あるもの』に【運命】付けられた存在は、具体的な誰か――ルミナスに【運命】付けられた存在となったのだ。
しかしこの名を用いる者は、『光』を同格と見なした『彼女』以外には存在しない。
引き続きアルには、唯一にして絶対の『あの方』として畏敬される。
下々にとっては名前どころか、ほとんどすべてには存在さえ認識されない。
ただ当人たちも由来の知らぬフェバルの略名の中に、その痕跡がある。
『光』が、来た。
――――。
『あなたに譲れないものがあるように。私にも譲れないものがあるの』
すべての人間を代表し。空しくも残酷な運命に力尽きた者たちの想いと願いを込めて。
『【運命】など、認めない』
――――。
『私はあなたに勝つ。星空を未知という希望で照らし、自由の海へ行くんだ!』
そして、『光』と『光』の激突が始まった。




