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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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52「それでもきっと何かのために生きている」

[現地時間4月29日 0時58分(日本時間4月29日 14時58分) アメリカ セントルイス近郊]


「唯一の真なる到達者、ねえ」

「何とももったいぶった言い回しだな。オイ」


 セカンドラプターの意見に、まったくだと同調するユナ。

【運命】なんて途轍もないものに戦いを挑もうというのだから、きっと言われるほど大した奴なのだろう。


「そいつの心当たりは?」

『いえ。ただあの人はTSPを極力まとめることで、探しやすくしているのだと思います』


 妙に隔離を強調すると思ったら、人探しも兼ねていたというわけか。

 恐怖心を煽り、上手くやったもんだな。

 トレイターの手腕はえげつないが、わかってみれば感心させられるところが大いにある。


 ただ普通の人間の顔をして紛れていると聞いて、何か引っかかるものがユナにはあった。

 この世界でおそらく唯一のフェバル。妙に条件には合致している。


 あの子が。まさかな。


 泣き虫のくせして妙に頑固というか、負けん気の強いところはあるけれど。

 まだ親心を加味しても、とても立派な戦士になるような顔つきには見えない。

 というより、なって欲しくなどない。誰が好き好んで我が子を最先端に立たせたいだろうか。

【運命】に戦いを挑む戦士。なれるならなってやりたいものだ。私が。

 けど悔しいがきっと、そうではないのだろうね……。


 トレイターの目的の一つはわかった。今は心に留めておく。



 ***



[現地時間4月29日 1時09分(日本時間4月29日 15時09分) アメリカ セントルイス近郊]


 話し合いが煮詰まってきたので、まとめに入る。

 一連の事態に収拾を付けるため、インフィニティアは改めてトレイターとの接触を試みるようだ。

 ユナとしては、ようやく黒幕周りの調査に乗り出そうというところだった。


「私は言った通り、一度日本へ帰るよ。NAACのことも調べなくちゃならないしな」


 タクからは、NAACがACWの制作協力をしていたという事実を伺っていた。

 異世界の何かしらが関わっている以上、自分抜きで立ち入り調査するのは危ないから止めておけと釘を刺している。


「で、オレはガキのお守りか。仕方ねえ。ちゃっちゃとやっとくよ」


 唯一救い出すことのできたヒカリとミライだが、強い能力を持っているとは言え、さすがに小さな子供をいつまでも同行させるわけにはいかない。

 然るべき場所で保護する必要がある。ホワイトハウスにも核事件の顛末を報告しなくてはならないだろう。

 セカンドラプターがその役目を担うこととなったが、もちろん。


「終わったらすぐこっちおいで」

「言われなくてもだぜ。これからが楽しい山場だってのにほっとけるかよ」

「シェリル。あんたもセカンドラプターに同行し、一度きちんと手当を受けるといい」

「お前に付いていかなくて、いいのか……?」

「トゥルーコーダが恨んでいるのは私だけだ。あんたたちだけなら、邪魔はされないはずだ。特にあんたは奴の味方だしな」


 ユナが一人先行することには、まだ潜在している敵を引き付ける意味もある。


「タク。時間がないから、危険を承知で飛行機を使うが。安全な旅のサポートはあんたに任せる」

『了解っす』


 TSGの蜂起以来、特に初期には飛行機が次々と落とされる事態が相次いだ。

 確かに最近は目立って落ちていないため、数は極めて少ないものの運航は再開されつつあるが。

 十分気を付けるに越したことはない。電子戦に備えてタクを頼るつもりだった。

 そこへ、インフィニティアが口を挟む。


『断言はできないけど。たぶん大丈夫だと思いますよ』

「根拠は」

『トゥルーコーダは、高速で動くものに対しては直接能力を行使できないんですよ』

「あらそうだったの? 私、あの1.20事件のときに走ってるとこいきなり爆撃受けたんだけど」

『そのときはサポート能力者がいました。けどその日、あなたが撃ち殺してしまいましたからね……』

「そうだったのかい。何にしてもそりゃ何よりだ」


 核攻撃を受ける危険もなくなった以上、街へ入ることも許される。

 そこでユナが翌日、セントルイス・ランバート国際空港からの始発便で日本へ先行する。

 セカンドラプターとシェリルはヒカリとミライを保護し、手当を受けてから日本へ追う。

 車は二台、ユナと残りに分かれて使用する。そういう手筈となった。


 ユナはおおよその事情については、仲間たちに包み隠さず共有したが。

 結局当人たちには、どうしても言えないことがあった。いたずらに士気を低下させるから、言うべきでないと判断した。

 自分が近いうちに死ぬかもしれないということ。

 そして……彼女たちもいつ死ぬか、わかったものではないということを。



 ***



[現地時間4月29日 1時11分(日本時間4月29日 15時11分) アメリカ セントルイス近郊]


 大人の話し合いを終えたユナは、一人車を出て待つ子供たちを迎えに行った。

 ヒカリもミライも、眠たい目を擦って健気に耐えている。

 そりゃそうだよな。子供はとっくに寝ているはずの時間だ。


「悪いね。待たせて」

「終わったんですか」「やっとかよ」


 この後、二人はセカンドラプターに任せて安全な場所へ送ることになる。

 戻らせる前に一つ、どうしても彼女だけは知っておかねばならないことがあった。


「なあヒカリ。あんたに聞いておきたいことがあるんだ」


 ずっと視えていて、それでも黙っていてくれたんだろう?


 ユナが目くばせすると、ヒカリは逡巡する素振りを見せ、否定はしなかった。


「はい」

「正直に言ってくれ。私は、あとどのくらい生きられると思う」

「それは……」

「いいんだ。言ってくれ」


 断じてただ受け入れるためではない。

 残された時間を嘆き、感傷に入り浸るためでもない。

 この先を戦い抜くための情報として。

 この身に何ができ、運命という名の敵が何を許そうとしないのかを知るためだ。


「正確にはわからないのですが。色んな人を見てきた感覚として、おそらく……二週間ないかと」

「そうか……」


 もうそんなになのか……。

 トレイターが元々期限として定めていた、日本時間5月10日。

 臭うな。おそらくリミットはその辺りなのだろうと踏む。


「ついでだ。他のヤツの様子も教えておくれ」


 ヒカリは躊躇いながらも、彼女にだけはずっと視えていた「事実」を伝えた。

 この人はとっくに覚悟を決めている。誤魔化せないと思ったのだ。

 すべて聞いて、ユナは深く頷いた。


「なるほどな。よくわかった。ありがとう」


 しみったれた、まるで幼馴染を責めるような空気になることを嫌ってか、ミライがわざとらしく言う。


「くたばったら墓参りくらいはしてやるよ。安心して死んどけ」

「あんたも大概いい子だよな。ミライ。彼女のためにって気を張るのもいいけど、もうちょい素直になってもいいんじゃないの」


 ガシガシと頭を撫で付けてやると、彼は「うるさい」と口を尖らせることしかできなかった。

 ヒカリが悲しそうに言った。瞳が潤んでいる。


「ユナさん。もしかして……死ぬつもりですか」

「は。何言ってんの」


 ユナはやれやれと肩をすくめる。不敵にも口元は緩んでいる。


「誰がわざわざ最初から死ぬためになんて生きるのよ」

「でも……」


 ベンのことだって。

 他に方法がないか検討を重ねて、みんなで苦悩して。最後の最後まで立派に生き抜いた結果なんだ。

 あいつは最初から運命に殉じるために生きてたわけじゃない。

 だから。これから私たちの番が来たとしても。


「私は最後まで諦めないよ。命尽きるそのときまで、何があっても全力で足掻き続けるさ」

「…………」


 薄々……わかってきたことがある。

 私は大学時代「偶然」シュウと出会い、彼に一目惚れされて、猛アタックされた。

 レンクスに比べたら、地味で不器用で。どん臭くて、泥臭くって。真っ直ぐで。

 いつも損な役回りを引き受けて。仕事だって忙しくなっちゃうのな。お人好しだから。

 何にも深い事情なんて知らないくせに。いや、あえて無理に触れないようにしてくれたんだよな。

 戦いに少し錆びていた私には、温かな日常がそこにあって。ちょっとだけ眩しかったんだ。

 確かに、あのレンクス(変態)にはない穏やかなものをくれた。

 あいつはどこまでも一番の戦友であり……やっぱ、そういう相手じゃなかったんだろうね。

 シュウにはヘタレと違って、告白する度胸もあったしな。

 負けたよ。根負けしたっていうか、なんて言ったらいいのか。

 それからは本当に幸せだった。

 あるときクリアを拾い、うちの子に迎えて。家はまた少し温かく賑やかになった。

 そして、ユウがやってきてくれた。穏やかな旦那に似て、私には過ぎた優しい子だ。

 二人が大きくなるところを見届けられないのなら、それは寂しいことだけれど。

 明日死ぬとしても、十分さ。幸せな人生だったって、胸を張って死んでいける。

 たとえ人生を何度やり直したとしても、私はあの子たちと出会う道を選ぶだろう。

 そのことに何の不満も、躊躇いもない。

 けどな。それは運命だからじゃない。

 決まっていたからそうするんじゃない。下らない水を差すんじゃないよ。


 すべて私の意志だ。私が選んだ道だ!


 全部わかったような顔をして。始めから全部諦めて。

 そんな死んだ目をした奴隷の人生。絶望したあいつらと同じ生き方なんて、まっぴらごめんさ。

 最初から諦めてる奴のところになんか、どんな奇跡だって起こらない。

 たとえもし大きく結末が変わらないのだとしても。運命だったとしても。

 最後の瞬間まで。この意志と生き方だけは、自分で決められるはずだから。


 きっと何か……意味なんか、本当はないのかもしれない。

 でも何かはあるはずなんだ。

 私たちが生まれ、生きて、そして死んでいくことには。

 私が戦い、この手で殺めてしまった者たちにも。残酷な世界に殺された子供たちにも。

 どんなに死にたくても死ねない、あいつらにも。

 これから先、死にゆく者にも。

 そして……大変な運命に臨むことになるだろう、あの子にも。

 何か、あるんだ。あるはずなんだ。

 人は願い、祈り、想いを紡いでいく生き物だから。

 そう信じることが。

 でなければ。誰も生きてなどいけるものか!


 ユナはあえて微笑みを絶やすことなく、落ち込む幼子の小さな頭をあやすように撫でてやる。


「大人はね、特に母親は強いのよ」

「ユナさん……」

「ヒカリ、ミライ。ユウのこと、よろしく頼んだよ」


 装甲車が一台、覚悟を秘めて。街へ向かって遠ざかっていく。

 おそらくもう二度と会うことはないだろう。

 ヒカリとミライは手を繋ぎ、いつまでも去り行く車体を見つめていた。

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[一言] ユナさんの言葉刺さります
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