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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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47「フェバルとTSP」

[現地時間4月28日 21時08分 アメリカ セントルイス近郊]


 ユナはルート66を南へ、爆心地のシカゴから遠ざかる方向へ走らせた。

 やがてセントルイス近郊へ辿り着き、それ以上街へ近づくことは難しいと判断して適当な場所で停車する。

 今日のところは車中泊を決める覚悟で、ヒカリとミライにもその旨を告げる。

 ユナの自身の気力を用いた内部治療もようやくレッドラインを抜け、眠りに落ちたとしても死にはしないだろうという感触を得た頃。

 シェリルがようやく目を覚まし、まともに情報交換ができるようになった。

 ユナは今世界で何が起きているか、とりわけ核攻撃が毎週繰り返し行われている恐ろしい現状について念入りに説明した。

 一方で異世界の存在、TSP発生の原因。自分が遠くないうちに死ぬと告げられてしまったこと。どれも結局は秘めることにした。

 上手く説明して、納得してもらう方法を見つけられなかったから。

 もっとも、セカンドラプターには目敏く尋ねられてしまったのだが。


「何だか言いにくいって顔してるぜ。朝からずっと思い詰めてよ。何書いてあったんだよ。水臭いじゃねーかユナ」

「悪いね。言いたくないって言うより、上手い言葉が見つからないのよ。背景から説明するとめっちゃ長くなるし。それに知ってもらっても、現状あまり意味があるとも思えないしな」

「……そうかよ。まあテメエがほんとにそう思うんなら、今はそれでいいさ。けどちゃんと言うべきと思ったら、そのときは説明しろな」


「少しは頼らせろよ。ったく」と最後は照れ隠しのように小声で吐き捨てたのが、何ともらしいというか。

 でも正直弱っていたユナには嬉しかった。


「ああ。色々落ち着いたらちゃんと話すさ。約束する」


 シェリルからはシカゴ爆撃の犯人がトゥルーコーダであること、『彼』が復讐に走ったのは、ユナの姿をした何者かがカーラスを惨殺したことがきっかけとなってしまったことを話す。

 セカンドラプターが、素直に思うところを呟いた。


「あの残忍なやり口、そして自由な変形能力……。たぶんだけどよ、カーラスって子を殺したのはあのバケモンじゃねーのか」

「確かにな。そう考えると合点がいくわ」

「私も……そう思う。あいつこそ……カーラスと子供たちの仇」


 静かに並々ならぬ殺意を燃やすシェリル。

 だが決してコーダのように憎悪に呑まれたわけではない。

 無邪気に殺意を振る舞い、ただ絶望と不幸をばら撒くだけの存在。

 良心や倫理観の欠片もない……正真正銘の怪物。

 あの邪悪なものはこの世にいてはならない敵だ。何としても倒さなければならないという使命感が彼女にはあった。


「私、あの子には正直めっちゃむかついてたけど。そんな死に方をしていいとまでは、思ってなかったさ……」


 神妙な面持ちになるユナ。

 若いだろうとは思っていたが、実際シェリルの口から彼女がまだ15歳だったと告げられては言葉が出ない。

 クリアハートと一つしか違わないじゃないか。そんな子が、世の中の広さだってまだ十分知らないだろうに。

 世界的テロに走らなければならなかった、根深い背景を思うと……。

 何か一つきっかけが違えば。クリアだって、世界を恨む何者かになっていただろうから。

 TSPは大半が未成年だ。少年兵を相手にすることは、可能性の芽を潰すようで。いつだって心苦しかった。


「そう言えば……なぜ、私を助けた」

「は? なんだって今さらんなこと聞くんだよ」


 セカンドラプターはさっぱりわからんと、肩を竦める。

 シェリルはあくまで立場にはこだわっていた。


「だって……私は、敵だろう。助けたって、また敵対するかも……しれないのに」

「バカか。目の前で血だらけになってんのに、ほっとけねえだろ。それにもう仲間じゃねーか」

「仲間……」


 あくまで一時共闘でそんなつもりはなかったから、シェリルは面食らってしまった。


「あんま下らねーこと言ってるとよぉ、テメエほっといてガキの一人でも助けたらよかったと思っちまうだろ。やめてくれよ」

「…………」

「それによ。オレだって立派なTSPだぜ? テメエらのやろうとしてることは許せねえが……気持ちはわからなくもねーんだよ」


 彼女は過去を思い返し、一瞬顔をしかめてから、身の上話を語り始めた。


 散々妙な力があるってみんなに怖がられてよ。汚いドブのようなストリートに捨てられて、そこからよくある地獄みてーな暮らしさ。

 あるとき、何の気まぐれか拾い上げられてな。初代ラプター、クソ親父だ。

 それで何か良くなるかと思えば、飢えなくなったこと以外はよけーにひでえ始末よ。

 酒を呑んだら暴力は振るう。単に機嫌が悪くてもぶん殴られる。

 ガキに身の回りの世話は全部させる。礼の一つだってもらったことはない。

 銃の手ほどきだってまともにしちゃくれねえ。【ハートフルセカンド】で見て盗むしかなかったんだぜ?

 12になってから、まるで肉便器のような扱いだって受けた。

 マジで死んだ方がいい、サイテーのクソ親父だった。

 それでも強さだけは。本物だった。憧れていた。

 力がなければ生きていけないというヤツの言葉には、妙な重みと説得力があった。

 まあ……目の前のヤツにあっさりぶっ殺されちまったわけだが。

 オレからしたら、とんだしょうもねえ勝ち逃げだよまったく。


 そこまで言って、彼女は熱い眼差しでユナを見つめる。

 今はコイツが憧れで、目標なのだと。真っ直ぐ隠さない。


「悔しいじゃねーか。世の中、カネだ力だって言うくせに。オレたちは誰より特別なものを持ってるはずなのに、散々恐れられ蔑まれてよ」


 どこか演説じみた語り口に、シェリルはいつの間にか固唾を呑んで聞き入っている。


「でもよ、あんなやり方は違うんじゃないかってよ。ただ怖がらせるだけって。それってマジモンの勝ちと言えるのか?」

「…………」

「だから見返してやるのさ。正々堂々と。オレは誇れるオレであるために。そこのユナをぶっ倒し、クソ親父の名を超え――世界一のガンナーになるって決めたんだ」


 So, I'm "the" Second Raptor.


 あんなバケモンにだって、負けてらんねえ。

 もちろん目標のテメエにもな。


 世の中の後ろ暗い面をこれでもかと味わい、それでもなおギラギラと野望に燃える彼女が。

 その手で未来を拓けると信じて疑わない、強く希望の光に満ちた瞳が。

 世を嘆く子たちを嫌と言うほど見てきたシェリルにとっては……あまりにも眩しかった。


「だからユナ! また勝負しろよ。ぜってー逃げんなよ!」

「……くっく。治ったらそのうちな」

「おう。とっとと元気になっちまえ。そしてくたばりやがれ」


 ユナは目を細め、困ったように苦笑いしていたが。

 その含むところに、まだセカンドラプターは気付いていない。



 ***



[現地時間4月28日 21時41分 アメリカ セントルイス近郊]


「さて。そろそろ本題に入ろう」


 核攻撃を止めるための作戦について、ユナは正直に話した。

 テロをしている側のシェリルとしてはなお複雑であったが、先ほどのセカンドラプターの話を聞いて思うところがあるのか、口を挟もうとはしない。

 トゥルーコーダが暴走を始めた現状、トレイターの青写真が既に狂っている可能性は大いに予想できた。

 なので、抑止力を保持しておくことの重要性を否定することはしなかった。

 懇切丁寧に説明を受けて、ヒカリはひとまず納得していた。


「つまり、私たちの力が核を止める鍵になるかもしれないと」

「そういうことだな。どうだ。できそうか?」

「わたしはたぶん、繋ぐだけなので。どうかな? ウィルは」

「世界中のものを動かすなんて、やってみたことはないが……。この力を使ってみて、まだ限界を感じたことはないな」


 ユナは思う。

【干渉】――もしミライの力があの『世界の破壊者』が持つそれの劣化版だとすれば。

 そもそもオリジナルが強力過ぎる。ミライがTSPとして規格外の力を持っていたとしても、何もおかしくはない。

 ともかく他に選択肢がない以上、この子を頼みにするしかないが。


「やらなきゃ世界が終わっちゃうかもしれない、ってことですよね」

「ああ。情けないが、子供のあんたたちに頼るしかないんだ。助け出してすぐこんな重荷を背負わせて、本当に申し訳ないと思ってる」

「僕らにしかできないんだったらやるさ。それがヒカリを守ることに繋がるならな」


 ミライが騎士(ナイト)気取りで言うと、ヒカリはしょうがないねと呆れ笑いをしていた。


「もう。カッコ付けちゃって。ウィル、昔からヒーローには憧れあったもんね」

「うるさいな。それにどっちかって言うと、僕はダークヒーローの方が好みなんだ」

「どっちでもよくない?」

「よくない!」


 わーわーやり始めたところは年相応だなと思いつつ、ユナは心から礼を述べる。


「ありがとう。よろしく頼む」

「はい」「おう」

「よし。これであと一人ってわけだ。あと二週間弱……今となっては、本当にそれだけ時間が残されてるのかもわからねーが」


 セカンドラプターの言う通り、日本時間5月10日が本当にXデーのままなのかは大いに疑問の余地があるとユナも同意する。

 チェインとオペレーションが揃った以上、残るはターゲッティングだけだが。

 ふと思う。

【干渉】が『世界の破壊者』とミライでリンクしていたように。

 TSPとフェバルが関係のあることから、何か類推してヒントは得られないだろうか。

 どんな能力に当たりを付ければよいかの目安くらいにはならないだろうか。


 例えばセカンドラプターの【ハートフルセカンド】は、何に対応しているのか。

 フェバルには時空間を操るタイプの能力はいくつもあるが……そのうちのどれかだろうか。

 うーん。該当が多過ぎて、特定はできそうもないな。


 シェリルの【運命の弾丸(バレット=オブ=フェイト)】はどうだろう。

 狙ったものは必ず命中させるという性質にこそ目が向きがちだが、念動力のガードを貫く特性があったことには驚いた。

 むしろそっちが本質なのかもしれない。

 それを知って、どことなく思い出されるのは。

 あの人が永き旅に削れて尽きかけた魂の最後を注いでまで創り上げてくれた、かつての私の愛銃のことだ。

 魔力銃ハートレイル。

 込めた魔力を弾として撃ち出し、あらゆるものを貫く。全貫通属性を持つ最高の銃である。

 あれがあったからこそ、自分は異世界で超越者どもの不意を突き、最後まで戦い抜くことができた。

 ハーティナ。【属性付与】の能力を持っていたフェバル。

 本当にいい奴だったな。もう二度と会えないけれど。


 ……何だか他の子に宿っているのに、またお前が助けてくれた気がしてならないよ。


 異世界の旅ではずっと愛用していたものだが、もう手元にはない。

 地球で魔法は使えないから。宝の持ち腐れになるからって、エストティアのルイスに託して置いていったんだよな。

 いつか誰かの役に立つといいんだが……。

 おっと。感傷に浸ってる場合じゃなかった。一応は伝えておこう。


「そうだ。シェリル。あんたの能力だけどね」

「……どうした」

「あれはきっと本質的には、何か概念的なものを貫く力なんだと思う。必ず貫き当てるという属性が付与されている。だから奴の能力をすり抜けることができたんだ。たぶんな」

「なるほど……」

「私やセカンドラプターが物理的な弾で相殺できたのは、それが何の変哲もない力業で。能力でも何でもなかったからさ」

「それはやっぱり何か……間違っていると思う」


 珍しくわかりやすく膨れた面をするので、ユナは苦笑いしてフォローを入れる。


「だからね、ただ当てるってだけじゃなくて。その先へ貫くことを意識してみな。そうしたら、あんたはもう一段強くなれるかもしれないよ」

「そうか。心得ておく……助言感謝する」

「それ、ずるくねーか。オレには何かねーのかよ」

「あんたはほっといても勝手に強くなるからいいでしょうが」

「そうか。それもそうだな。オレって天才だからな!」


 ちょくちょく頭のキレる割に単純なんだよねえ。こいつ。


 いつものようにあしらいつつ、ユナは残るもう一つの能力について考察を進める。


 あとはヒカリか。

【光あるもの】……これは何だろうな。何に対応しているんだ。

 エーナさんとやらの【星占い】か?

 いや、それにしては謎の光ってやつが前面に出過ぎているような……。

 エーナさんとは仲良しだと言うレンクスに聞いたところによると、彼女の力は占ったことに能力が逐一回答する形式らしい。

 占って初めて知ることと、始めからそこにあって視えているもの。丸っきり違うよな。それじゃあ。


「なあヒカリ。あんたの視える光ってのは、どんなものにでもあるのかい?」


 問われて、彼女はあっさりと肯定してくれた。


「はい。この世界のあまねくどこにでも。それは常にわたしたちを照らしています」

「なるほどねえ……」

「あ、でも。わたしじゃなくても、TSPなら夢か何かに一度は見えるものみたいなんです。一緒に捕まっていた子供たちの中にも、見た子がいるって」


 彼らの殺されてしまった事実を思い出して、どうしても後ろめたい顔になってしまうヒカリ。

 セカンドラプターとシェリルも、記憶の片隅を辿っていた。


「そういや、オレも一度だけ奇妙な光を見たような……。ずっと昔のことだから、ぼんやりとしか覚えてないけどよ」

「私もそう言えば……確かにあれは夢か何かだと思っていたが」

「僕もあるぞ。忘れもしない、ヒカリと初めて出会った日にな」

「へえ。私はそんなもの一回も見たことないんだけどねえ」

「どうやら普通の人には見えないものではあるみたいですね」


 幼いゆえ出会った人の総数も少ないが、彼女なりの経験をもってヒカリは答える。


「まるでTSPだけの啓示……だな」

「光るものによって、定めを受けた者ってか……」


 We are all fated by luminous stuff……


 ん?


 セカンドラプターが何気なく呟いた英語の響きが、ユナは不意に引っかかった。

 急に点と点とが繋がったようで。自分でも信じられなかった。

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