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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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43「特殊能力許容性」

[現地時間4月28日 9時45分 アメリカ シカゴ ACW製造プラント地下]


 シャイナは癇癪を起こしていた。

 まだ辛うじて息の残っていた子供たちの首へ、消えない苛立ちをぶつけるように。

 ずたずたに斬り落とし、頭部を「材料」にして回る。

 憎々しく作業をこなしながら、一方では反省もしていた。

 戦闘では圧倒していた。負ける要素など一つもなく、実際あのまま続けていれば勝っていた。

 だが。まるで己の手をすり抜けるように。

 何から何までタイミング良く邪魔が入り、ほとんど奇跡的に逃げられてしまった。


 一連の作業を終え、事の顛末を主へ素直に報告すると。


『だから言っただろう。Xデーはもう少し先だと。星海 ユナはまだ死すべきときではない』


【運命】は然るべき場を用意している。彼は知っているのだ。


『残る者については、その限りではなかったが。彼女を生かすために自然な形で因果を引っ張られたのだろうな』


 シャイナは大いなる【運命】、その絶対的な力をようやく真の意味で実感しつつあった。

 それでも悔しかった。

 わたしならば、もっと上手くすれば殺せたかもしれないのに。

 想定以上の結果を出して、主のお役に立てたかもしれないのに。

 わたしも造られたとは言え、【運命】からわずかに外れた存在――異常生命体なのだから。


 彼女はなお不機嫌のままに思念を送り付ける。


 そもそもだ。あの転送陣は主のものではないかと。

 なぜわざわざ逃がすようなものを置いておいたのかと。


『それもまた因果の収束だな。上手く利用されてしまったものは仕方がないさ』


 ではなぜ、素直に主のもとへ寄こさなかったのですか。


『あいにくこの身体は只人だ。戦うようにはできていないのでね。万が一があってはいけないだろう?』


 瀕死と言えど、地球最高の戦士どもを自ら相手取るのはリスクがあるのだ。

 主は大仰に肩を竦めてみせた。


『すべての荒事は任せる。そのためにお前がいるのだよ』


 シャイナはたったその一言だけで、もうすっかり機嫌を直してしまった。

 下等生物には決して見せぬ花の笑みを浮かべる。

 主に存在価値を認められるのならば、それだけで他には何も要らなかった。



 ***



[現地時間4月28日 9時41分 アメリカ ルート66]


 転送の途中、強烈な何かに弾かれたような感覚が全員に走った。

 そして気付けば、どこか地上へと再出現していた。

 辺りは荒涼な風景が広がっている。英語の標識があったことで、少なくとも地球上のどこかではありそうだった。

 ユナは直ちにここがどこであるかを調べ、シカゴとサンタモニカを結んでいた旧国道――ルート66の途中であることを知る。

 幸いにも爆心地から遠く離れた位置ではあったため、とにかく命拾いはしたのであるが。


「明らかに本来飛ぶはずの場所じゃねーよな」


 右目の止血処置をしたセカンドラプターが、肩で息をしながら呟く。

 シェリルは既に気を失い、ユナも油断するとすぐにでも気を失いそうになっていた。


「これから、どうするんでしょうか?」


 不安げにヒカリが尋ねてくる。

 ミライも何も言わないものの不安に思っていることは確かなようで、彼女の側で固く腕を組んでいる。


「下手に街へ出るのは……よくないな。ちょっと考えるから休ませて」


 さすがのユナもほとんど死ぬところではあったので、正直な弱音が勝った。

 明らかに核攻撃の標的とされた以上は、電子機器の多い街はそれだけで極めて危ない。

 残念ながら病院で手術を受けたり、じっくり快復を待つことも望めないだろう。

火薬庫マイバルカン】から装甲車を取り出し、セカンドラプターに運び込んでもらう。

 ヒカリとミライは後部座席へ乗り込み、シェリルはその隣で寝かせる。セカンドラプターは助手席へ。

 運転席にもたれかかるユナはぐったりし、死者かと見紛うほど血の気が失せていた。


「ユナ。マジで大丈夫か? くたばるなよ。まだテメエとはケリ付いてねーんだからな」


 こんなときに勝負事の心配かと、彼女なりの素直でないエールに笑うのも痛いのだから勘弁してくれとユナは思う。


「一応ね。安静にしてれば、死にやしないさ」

「そりゃ何よりだ。でも初めてテメエを人間だと思えたよ。あんなバケモン見た後じゃあな」

「まったくだ……」


 すべての気力を節約し、内部の回復へ優先して回す。折れた骨も繋げようとする。

 普通の人であれば死に至る傷も、彼女であれば手遅れにはならない。

 ただ、骨や内臓の修復にはどうしても時間がかかる。それにあまりにも受けたダメージが大き過ぎた。

 地球の許容性の低さがネックとなって、完全に元には戻らないかもしれないとユナは覚悟していた。

 今後、動きの鈍り等に小さくない影響があるだろうなと。

『地上最強の主婦』星海 ユナの全盛期は、どうやら本日をもって終わってしまったらしい。


 そうか……。隣のこいつとももう、全力で戦ってやることはできないか……。


 感傷のまま惰眠に浸りたくもなるが、じっと回復を待つ間、気を失うわけにはいかない。

 ここで寝てしまい回復操作を止めてしまえば、本気で命を落としかねないと彼女は考えていた。


 ――そう言えば、あそこで回収したブツがあったな。


 何か掴めないかと。懐から取り出してみる。

 己の血に塗れてはいたが、外カバーがしっかりしていたからか、中身は無事だった。


『星海 ユナ。ひとまずはおめでとう』


 いきなり目に飛び込んできた一行目から、彼女は我が目を疑った。

 自分がそれを読むとわかっていてわざわざ用意したとしか思えない文面に、混乱する。


『我が忠実なるしもべが素敵な挨拶をしてくれたようだが。

 僕はお前が生き延びると確信し、この手記をあえて残してやることにした』


 こいつは。どこぞの世界とも知れない野郎は、何を見通している?

 霞みがちな目を凝らして、どうにか読み進めていく。


『お前と言う人間を付随的に観察してきた身として、常より苦言を呈したいと思っていた。

 実に愚かなことだ。お前が無駄なことをしなければ、誰も余計に苦しまずに済んだだろうに。

 お前自身も違う世界のことなど知らず、退屈で幸せな人生を送れたろうに。

 お前の下らない英雄気取りがほんの少し何かを狂わせたところで、本質的には何も変わらないというのに』


 逐一人を煽る腹立たしい文面であるが、何か真実を抉るような書きぶりにユナは睨みを深める。


 この書き手。こいつ――私が異世界で旅していたことを知っているのか。なぜだ。


『これは無駄骨を折って、健気にも何か真実の一端を知った風な気になっているお前への、せめてもの手向けだ。

 どうせ知ったところで、お前には何もできないのだから』


 嘲る調子の文章に続いて、手向けとやらが綴られていた。


『許容性という概念のあることは、お前ならば知っているはずだ。

 地球とはこの宇宙で最も許容性の低い星。そして技術の著しく遅れた星だ。

 魔法にも科学にも、ろくに頼ることはできなかった。

 もっとも、許容性には数多の種類がある。

 気力許容性しかり、魔力許容性しかり、物理許容性しかり。

 だがこの許されざる世界において、あらゆる許容性操作は弾かれた。何ら意味を為さなかった。


 たった一つ、特殊能力許容性を除いては』


 特殊能力……許容性だと?


 そうして、超能力との戦いの裏で探し求めていた真実は。

 そこにごくあっさりと記されていた。


『TSPとは。我が力によって特殊能力許容性を操作し、生まれた存在だ』

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