41「運命の光と【干渉】」
[現地時間4月28日 9時30分 アメリカ シカゴ ACW製造プラント地下]
「きゃあっ!」「うわっ!」
ヒカリとウィルはバランスを崩し、その場に尻もちを付いてしまった。
ユナは咄嗟のところで踏ん張り、天井を睨み上げる。
今の揺れはなんだ!?
激しい衝撃が一瞬、建物全体を揺らした。
シカゴで滅多に地震は起こらないし、すぐに揺れが止まったことから、そもそも地震の揺れ方ではない。
すぐ上で爆発が起こったなら、もう少し音の発生源が近いはず。そうではないということは――。
まさか。核か……!?
最悪の可能性に思い至ってしまう。それしか考えられない。
だが次の攻撃はまだ先のはず――いや、敵が律儀にペースを守ってくれると期待するのは愚かなことか……。
通信機を使おうとするが、うんともすんとも言わない。
地下深過ぎて電波が届かないのだ。タクに状況を確認することはできなかった。
前に視線を戻すと、ウィルがヒカリを助け起こしているところだった。
「大丈夫か。ヒカリ」
「うん。平気だよ。ウィルは」
「僕も怪我はないさ」
ひとまず二人に何もなかったことはよかったと思うが。
しかし、もし推測通りだとするなら……最悪だ。地上に逃げるというほぼ唯一の手段を封じられてしまったのだから。
地上部は跡形もなく消し飛んでしまったことだろう。放射能が致死レベルで拡散されているはず。出ていくのは自殺行為だ。
この地下がおそらく地球の科学技術を超えた産物であったことが幸いした。
核シェルターのようにプロテクトがしっかりしていたから、運良く無事だったに過ぎないのだ。
何か一つでもタイミングが違えば、一瞬で死んでいたかもしれない事実にぞっとする。
フェバル、星級生命体――あの化け物どもと対峙したとき、紙一重で生き残ってきたあの感覚に近いものを感ずる。
どうしたってまだ生きているんだかな。本当はもう何度死んでたっておかしくはないのに。
ユナは自嘲気味に思う。
地球では無敵のように思われている彼女だが、決してそうではない。
異世界の旅も含めれば、彼女自身奇跡のような確率を乗り越えて生き延びてきたのだ。
シェリルの狙撃だって当たり所が悪ければ死んでいたし、今さっきのことも。
せっかく拾った命だ。黙って諦めてやりたくはないが。どうする。
籠城戦はどうか。核物質には半減期があり、数日も待てば直ちに死の危険があるほどではなくなる。
【火薬庫】には糧食のストックも多少はある。人数分を長期間賄えるほどではないが。
いや、ただ待つのは死を先延ばしにするだけか。動けないことを見抜かれたら、何発だって繰り返し撃ってくるに違いない。
そもそも風雨から汚染物質が建物内へ侵入する危険もある、か。
とするなら、活路は――。
「あんたたち、言ったな。役に立てるんじゃないかって」
「はい。言いましたけど」
「それは、その転送陣を何とかできるって意味じゃないのかい?」
どこに繋がっているか知らないが、座して死を待つよりはいい。
ヒカリとウィルは……否定しなかった。
「えっと、そうですね。まさかこんなものが見つかるなんて思わなかったんですけど」
「ヒカリはな、人や物の後ろにある光のような何かが視えるのさ。それはある決まった方向性――言うなれば、運命や未来を指し示している」
「そうなんです。それで、こっちへ来た方がマシな未来がある気がして。そこまではっきりとは……視えないんですけど」
「なるほど。未来視のようなものってことか……」
またしてもデジャヴだ。一部のフェバルには似たような力を持つ能力者がいる。
直接会ったことはないが、【星占い】のエーナなどが代表例だ。そいつらはもっと精度が高いと噂には聞いているが……。
そこで、頭の片隅に引っ掛かっていたものが呼び起こされる。
光を見た。光――。
運命の、光。
あの『炎の男』が言っていたのは、もしかしてこれなのか……?
TSPにしか視えていない『何か』があるのか?
何かを掴みかけているが、あと一歩が見えてこないもどかしさがあった。
しかし今は考察に耽っている場合ではない。現実に手を打つときだ。
「オーケー。ヒカリの能力は何となくわかった。ウィルは――」
「ミライだ」
むすっと彼が顔を背けるので、ヒカリがフォローした。
「ウィルって渾名なんです。ごめんなさい。わたし以外が気安く呼ぶと嫌がるんで」
「そうだったのかい。じゃあミライ、あんたの能力のことも教えてくれないか。転送陣を何とかできるのはあんたなんでしょ」
ヒカリは視えるが、視えるだけではどうにもならない。その答えは彼にあるとユナは見ていた。
「まず言っておくが。僕の力は、ヒカリがいてこそ真価を発揮するんだ」
「わたしたちって、二人でワンセットみたいなものでして」
「こいつには光が視える。僕はこいつを通じてその光に、少しばかり【干渉】できるのさ」
「【干渉】……今【干渉】って言ったのか!?」
それじゃまるで本当に――『世界の破壊者』じゃないか。
驚愕するユナに対して、ミライは心外だった。
「何をそんなに驚いているんだ。僕もTSPとして攫われたのだから、優れた能力があるに決まっているだろう」
「そうか……。いや、驚いたのはそこじゃないんだが……まあいい」
「何を期待しているのか知りませんけど。あまり期待しないで下さいね」
どこか悟り切ったような、褪めた目でヒカリは言う。
「世界には大きな流れがあって、それを変えることは……たぶんできません。人の運命に【干渉】することはできないんです」
「家族も親戚も、どいつもこいつも死んでしまった。何をしても、為すすべなくな。僕らは二人ぼっちなのさ」
彼女を庇い立てるように――ミライはいつもそうして側に立っている。
何物にも代えがたい強い絆で結ばれているように、ユナにはそう思われた。
「けれどせめて、物の向かう光の行く先を変えるくらいなら。できると思います」
「そこで僕の出番ってわけだな」
最後だけは子供らしく、ミライはにやりとしてみせた。
「まさかこんなところで探していた鍵が見つかるとはねえ」
ヒカリとミライのセットであれば、チェインとオペレーションの条件を同時に満たしている。
あれほど探してもいなかったのに。いっぺんに二人も希望が見つかるなんてことがあるものなのか。
確かに運命めいたものを――何か大きな流れを感じざるを得なかった。
この子たちは、世界の命運を握る鍵だ。
どうあっても死なせるわけにはいかなくなった。
「あの。鍵って何の話ですか?」
「その話は後だ。この状況を乗り切ったら必ず説明する。今はこの場を頼んでいいか? 転送陣を何とか使えるようにして欲しいんだ」
「いいけどさ。お前はどうするつもりだ」
「もちろんみんなを連れ戻しに行くのよ」
「わかりました。ただ……」
「なんだ」
「向こうには良くない未来が視えます。どうか気を付けて下さい」
「そうかい。心得ておくよ」
ユナは二人に場を任せ、駆け足でシェリルたちの元へ向かう。
確かに嫌な予感がする。このまま何事もなく終わるとは思っていなかったけれど。
こっちだって嫌ってほど修羅場は乗り越えてきた。何が待ち受けていたとしても、戦うだけさ。




