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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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552/712

Y-4「ユウ、小学校へ入学する」

 宣言から1週間ごとの3月29日および4月5日、予定通り核攻撃は実行された。

 それは初撃よりも小さな都市への攻撃かつ各々異なる国へのものであったが、被害都市は当然壊滅的被害を受けた。

 報復攻撃をしようにも、相手が正体の掴めないテロ組織とあっては目標が定まらず。国連で議論するもお手上げ状態だった。

 さらに追い打ちをかけるように、驚愕の事実が判明した。

 アメリカのみならず、ロシア、イギリス、中国、フランス、インドといった主要核保有国のすべてにTSGの魔の手が及んでいたのだ。

 世界が保有する核兵器、その実に半数以上を押さえられているという最悪の事態が明らかとなった。

 しかもほとんどの国の迎撃システムが機能不全に陥っていることもわかった。

 もはや事実上、世界の命運はTSGに握られたと言って過言ではない。

 特にカーラス=センティメンタルの手により陥落したとされるフランスの掌握ぶりは深刻なもので、五つの要求を最も忠実に実施している国とまで揶揄されるほどだった。


 世界各国が大混乱に陥る一方で、1.20事件を乗り越えた日本だけは力強く無事だった。

 不安が広がる中、新首相による核迎撃システムの公表がなされた。

 しかも実際に3月29日の一発は日本に向けられていたのだが、それを見事に防いでみせたのだ。

 その映像は繰り返し放送され、恐怖に慄く国民を勇気付けた。

 日本の安全性が示されると、各国の人間はこぞって避難を望んだ。

 しかし相変わらず世界は分断されており、飛行機もテロを恐れてほとんど飛ばない事情もあって、移民が大挙して押し寄せるような混乱は起きなかった。


 宣言から49日後の5月10日、Xデーにはどうなってしまうのか。本当に世界は核で焼き尽くされてしまうのか。

 皆破滅への恐怖を抱えながら、そこから目を背けるように日常は綴られていく。



 ***



[4月8日 9時30分 東京 とある小学校]


 6年生のお兄さんお姉さんに連れられて、新1年生が入場してくる。

 今日はユウの入学式だ。

 残念ながら母ユナは一人アメリカで奮闘しているが、代わりにシュウは仕事を休んで駆け付けた。

 父の隣にはもちろんクリアも見守っている。タクも泣いて来たがったが、ユナのサポートのために本部で缶詰めになっている。

 ユウは目敏く保護者たちの姿に気付いて、にこやかに手を振っていた。


「ユウ、あんなに立派に大きくなって……」


 シュウはもう入場だけですっかり涙ぐんでいた。

 クリアは涙こそないが、愛する『弟』の晴れ姿に表情が緩みっぱなし(本人比)である。

 色々あって本人は学校へ通えなかったので、ユウにはいっぱい学んで楽しんで欲しいと願っている。


「まだまだ、これから。もっと大きくなる」

「うん。そうだな。この先の成長が楽しみだ。お母さんにも見せてあげたかったよ」

「後で写真、送ってあげよ」

「そうしよう」


 二人が温かく見守る中、つつがなく入学式は終わった。



 ***



[4月9日 8時25分 東京 とある小学校]


 最初の朝の会が始まる。


「昨日も挨拶しましたが、今日もう一度挨拶しますね」


 黒板にすらすらと自らの名前を書き、新米の若き女教師が笑顔で挨拶した。

 1年生の指導をいきなりするのは経験がなければ難しい。

 なので本来なら新米は2年生以上の担当になるのだが、彼女たっての希望で1年生を任せてもらったので、気合も入っている。


「あなたたち1年生のみんなを教えることになりました。新藤 ミズハと言います。新藤先生でもミズハ先生でも、先生でも、呼びやすいように呼んで下さいね」

「「はーい」」


 子供たちの素直で元気の良い返事に、ミズハは早速感動していた。


 ……あの子が生きていたら、今どこかの教室でみんなと同じように新生活へ胸膨らませていただろうか。


 おっといけない。今はセンチメンタルになるときではない。

 彼女は気を引き締める。


「今日はですね。みんな仲良くなるために、最初の1時間目は自己紹介をしていきたいと思います。できるかな?」

「「はーい」」「「できるー」」

「はーい。えらいですね。では始めに私からさせてもらいますね」


 子供たちに理解しやすいよう、嚙み砕いた言葉で自己紹介していくミズハ。

 めいっぱい彼らの拍手をもらった後、彼女は言った。


「これで私は終わりですが。何か先生に聞きたいことある人、いますかー?」


 女子生徒の一人が元気よく手を上げる。


「せんせ~。せんせいは、どうしてせんせいになったの?」

「それはですねえ。みんなのことが、子供が大好きだからですよ。みんながお勉強して大きくなっていくお手伝いができたら嬉しいなって。だから先生になったんです」

「わぁーすてき。がんばってねせんせい」

「ありがとう」


 それからいくつか当たり障りのない質問が続き。これで終わりかというところで。


「せんせいは、どうしてそんなにさみしいの?」


 不意に抉るような質問が飛んできて、ミズハは笑顔が凍り付いた。

 声の主を見やれば、件の星海家の息子である。


「えっと……。寂しい? どうしてそう思ったのかな?」

「だってね。せんせい、おれたちみててね。ちがうこのことかんがえてるの。そのこがね――」


 ――図星だ。それ以上はいけない。


 浸ってしまったら、いい歳した大人が子供たちの前で泣いてしまうかもしれないから。みんな困ってしまうから。


 まだ小さな子だというのに。いやだからこそか。

 初対面からずかずか心の奥へ踏み込んでくることに、ミズハは末恐ろしさを感じる。

 とりあえず今は誤魔化すしかしようがなかった。


「そ、そんなことないですよ? ずっとみんなのことだけ考えてますよ?」

「ふーん、そっかぁ。せんせいは、つよいんだね」

「え……うん。そうね。大人だからね」


 クラスが妙な空気になってしまったので、手を叩いて仕切り直す。


「はい、質問はおしまい。みんなきっと、新しい学校の暮らしを楽しみにしている子も、まだまだ不安がある子もいると思います」


 様々な顔つきをした子たちを眺め渡して、息を整えつつ。

 何日もかけて準備した流れに引き戻す。


「でも大丈夫です。みんながお友達になって、みんなで助け合って。先生ももちろん力になりますからね。一緒にお勉強して、学校生活楽しんでいきましょうね」

「「はーい」」

「ではあいうえお順に名前を呼んでいきますので、呼ばれた人は立ち上がって、お名前と好きなこととか好きな食べ物とか言っていって下さいね」


 クラスメイトの自己紹介が始まった。



 ***



[4月9日 8時40分 東京 とある小学校の外]


「本日天候、晴天なり。教室に異常……なし」


 ゆるパンとパーカーに身を包んだクリアは、校庭側にある木に登って双眼鏡でユウを観察していた。

 立派に護衛任務を果たすためである。あくまでも。断じて。


「ユウ……いつも通り。かわいい」


 傍から見れば完全に不審者であるが、それは見えればの話。

 彼女の透明化能力【神隠しかくれんぼ】の真価が発揮されていた。手にした双眼鏡もろとも、誰にも気付かれることはない。

 実はこの能力を使えば学校内に侵入し、より近くでユウを観察することも容易い。

 ……のだが、さすがに控えることにした。

 というのも、透明化できるとは言え、その場から消えるわけでもすり抜けるわけでもない。普通に実体はあるのだ。

 小学校の子供たちはよくはしゃぐので、うっかり廊下で走る子と見えないまま激突して大怪我に繋がったりしたら大変である。

 我が『弟』への愛は重いが、されど民間人の安全への配慮も欠かさないのがプロである。

 誰にともなく「えっへん」と小さな胸を張ったクリアは、時折持ち込んだペットボトルのお茶で喉を潤しながら最重要任務を続けた。



 ***



[4月9日 8時45分 東京 とある小学校]


 人の心を感じ取れるユウにとっては、『姉』が見守ってくれていることなどすぐにお見通しだった。

 よほど真剣に隠れようとしなければ、彼から完全に気配を消すことなど不可能だろう。

 実は窓際の席を引き当てていた彼は、クリアお姉ちゃんに向かって見えるように、めいっぱい笑顔で手を振った。

 クリアお姉ちゃんは、透明化したまま親指をぐっと立てて返す。

 仲睦まじい姉弟のやり取りを続けていたところ、さすがに先生の目に留まってしまった。


「星海さん。せっかく武井さんが自己紹介してくれてるのに、ちゃんと聞かないといけませんよ」

「あ、ごめんなさい。あのね。あそこにおねえちゃんがいてね」

「あらあら。うふふ。寝ぼけているんですか。そんなお空にお姉ちゃんはいませんよ」


 ちゃんと小さな子供らしいところもあるのだなと、ミズハは微笑ましく感じて笑う。

 つられてクラスから笑い声が上がると、ユウは顔を赤くして縮こまってしまった。


「う~。いるもん……いるのに」


 と小さく口を尖らせるも、誰も真剣に取り合うことはなくて。

 先の変な質問と合わせて、既に不思議ちゃんとしてデビューの一歩を踏んだことに、当人はまったく気付いていなかった。

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