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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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31「ニューヨークラプソディ 6」

[現地時間3月21日 21時55分 ニューヨーク ブルックリン区 北西部]


 弾丸に身を弾かれたユナは、背中から仰向きに倒れた。

 ハンドガンがカラカラと音を立てて地面に転がる。


『ユナ!』


 駆け寄ろうとするセカンドラプターを、ユナは決死のハンドサインで制する。

 そのまま手指を使い、彼女にだけ伝わる秘密のメッセージを送った。


 能力……使え。弾……曲がる……?


 どういうことだと混乱するセカンドラプター。

 だがせっかく命懸けのメッセージだ。

 ひとまず言われるがまま、【ハートフルセカンド】を再始動させる。


「なにぃ!?」


『オレのための時間』を作り出した彼女は、自身にも危機が迫っていたことを途端に察知した。

 ユナだけではない。彼女にも必殺の弾丸は届けられようとしていたのである。

 だが腐ってもTSP。いかに超人じみていても、あくまで普通の人間であるユナとオレは違う。

 こんなもの。見えてさえいればどうということは――!?


 曲がるってそういうことか! 弾が追尾して来やがるッ!


「ちっくしょう!」


 セカンドラプターは大いに焦り、やたらめったらと銃を撃ち放った。

【ハートフルセカンド】の影響を受けるのは、何も彼女自身だけではない。彼女が撃ち出した攻撃も対象である。

 超加速した弾丸のうち二、三発が狙撃弾にどうにか命中し、メタルジャケットが砕け散る。

 運動エネルギーのほとんどを失った敵の弾丸は、まるで意思を持つかのように胸元へ到達するも、そこでぽとりと落ちる。

 もはや彼女に致命傷を与えることはなかった。


 そうして、セカンドラプターが命からがら初撃を凌いだ頃。


 ユナは肩を押さえ、息絶え絶えながらも立ち上がった。

 辛うじて急所を外していたのだ。銃弾は左肩、鎖骨の少し下の辺りを綺麗に貫いていた。


「情けない、な……」


 やられた。とんだ初見殺しだよ。

 ユナは内心毒吐く。

 ここからマンハッタンの高層ビル群まで、どんなに近くても最低5kmはある。

 アウトオブレンジ――地球上に存在する銃では、弾が本来届く射程より外だ。

 しかも避けたはずなのに弾の方が追ってくる。明らかに弾は曲がっていた。

 考えろ。なぜ竜巻野郎は、わざわざ必要もないのに周囲の建物を潰して回ったのか。

 単に残忍だったからではなかった。

 見通しを良くするため。真の狙いは、本命であるスナイパーのためだったのだ。


 つまりだ。ここから推測できる事実は。


 敵はこちらを視認さえしていれば、確実に銃弾を当てる能力を持っている――!


 ……まずいな。このままでは一方的だ。


 いかに私たちの腕が優れていても、物理的限界というものはある。

 とても反撃できる距離じゃない。


 傷口が燃えるように熱かった。

 油断すれば膝を付いてしまいそうなほど、足元がふらついている。

 敵としては千載一遇のチャンス。逃がすつもりはないだろう。

 けどな。

 ユナは不敵に笑う。


 手品は一度タネが割れてしまえば、どうとでもなるのよ。



 ***



[現地時間3月21日 21時56分 ニューヨーク マンハッタン区 某ビル高層階]


 カインダー=ブラッディ=シェリルは、窓際からスコープで仇敵の女どもを覗いていた。

 通信機からは、年少二人組の賞賛が送られている。


『見事な腕前だ』

『お姉様ぁ~! やっちゃって!』

「……任せておいて」


 一応、手のかかる妹分たっての頼みでもあるし。

 しかし運の良い奴らだ、と立ち上がる二人を見て思う。

 よほど当たり所がよかったらしい。


【運命の弾丸(バレット=オブ=フェイト)】は、こと狙撃において並ぶもののない力だ。

 それは込める弾に彼女が念じ祈ることによって、最大六発まで発動する。

 使い切ってしまえば、クールタイムはおよそ一日。

 祈り、運命に祝福された弾丸は奇跡の力を持つ。

 どんな相手であれ、どんなに遠くにいようとも。

 この目で視認し狙いを定める限り、必ず弾は命中する。


 だがどんな能力も完璧ではない。

 この能力には唯一「どこに当たるかわからないし、当たった結果までは保証しない」という弱点があった。

 ゆえに超長距離狙撃においては、一発で絶命せしめない事態は稀にだがあった。


 けれど残りはまだ四発もある。幸運もいつまでも続くはずがない。

 もう一人何か妙なのがいるけれど。あくまでメインターゲットは星海 ユナ。

 ふらついているところを見るに、確かなダメージは与えている。


 ……今度こそ仕留める。


 当作戦に快く命を投げ出してくれた戦友を偲び、これまで犠牲となった仲間たちの無念を思い返し。

 噛み締めるように、ゆっくりと引き金を引く。


 それだけですべてが終わる――はずだった。


「……?」


 なぜだ。


 終わらない。なぜ。


 なぜ、まだお前はしかと両足で立っているの……?


 信じられない思いで、再びトリガーに指をかける。

 今度は苛立たしく、二度連続で力を込めて引く。


 ――ああ。ああああ……!


 シェリルは、己の内にみるみる恐怖が込み上げるのを感じていた。

 なまじスナイパーとしての腕が優れていたからこそ、理解した。

 そして戦慄した。


 あの女、どんな化け物よ。


 いったいどれほどの神業が、それを可能にするというの……!?


 間違いない。


 星海 ユナは――撃ち落としている。


 寸分違わず、こちらの放った弾丸を正面からぶつけ合わせている……!

 致命的な弾丸の威力を……完璧に殺している。

 秒速1000メートルもの速度で飛来するライフル弾を。あのごく極めて小さな的を。


 一切、何の能力も使うことなしにだ!


 不意のことで、スコープ越しに目が合う。

 明らかにこちらを挑発的に見ていた。もうこちらの位置を正確に把握していた。 

 そして奴は、これ見よがしにライフルの引き金を引いた。


 ……距離に関しては、安全マージンを十分に取っている。


 だから彼女の放った弾丸は、ここには決して届くことはない。


 だがシェリルは、またも己の高い実力を恨んだ。

 それは、完璧な角度だった。

 もし距離さえ詰められていたならば、確実に自らの脳天を貫いていたことを理解らされてしまったからだ。


 呼吸が乱れる。肩が震える。銃身がぶれる。


 星海 ユナの獣のような目が、ありありと語っていた。


 お前など、こそこそ離れて撃っているだけの卑怯者でしかない。

 お前など、与えられた能力に頼った半端者でしかない。

 条件さえ許せば、死ぬのはお前だと。そこで待っていろと。


「う、あ。負ける、ものか……!」


 まだだ。まだあと一発残っている。勝負は終わってない!


 そのとき、通信が再起動する。

 シェリルははっと息を呑み、我に返った。

 彼女を心配したコーダからだった。


『もうやめよう。失敗だ。レッパのことは残念だったね』

「ダメよ。これじゃ、私が……」


 ただ彼の命を無駄にしただけになってしまう。

 誇りと友情にかけて、そんなことは許されない。


『深追いはしちゃダメだよ。みんなで約束したじゃないか』

「…………」

『それに時間まで間もなくさ。ぼくらは撤退しよう』

「……くっ。了解。直ちに撤退する」


 後ろ髪を引かれる思いをしながら、彼女はユナに背を向けた。


 今度は負けない。負けられない。まだ震えの止まらない胸に誓う。



 ***



[現地時間3月21日 22時00分]


 きのこ雲が膨れ上がり、夜空を破滅の光が照らす。


 ボストンは――核の炎に包まれた。

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