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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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541/711

25「星海 ユナ、嵌められる」

[現地時間3月21日 11時32分 ホワイトハウス]


 神速の銃撃は過たず、ゴールマンと護衛の眉間に風穴を開けていた。

 彼女は何度か直に会ったことがあるから、わかったのだ。

 彼から発される生命波動は、本物のそれとまったく異なっていた。

 ゆえに確信をもって撃ち抜いた。

 男は狂気と歓喜に満ちた顔で崩れ落ちていく。まるで自分が死ぬことをわかっていたかのように。

 能力で変身でもしていたに違いないが、本物と見分けの付かない偽大統領は、意地でも仮初の姿のままで死んだ。


「こんなことならのこのこ来るんじゃなかったよ」


 冷や汗を拭いつつ、自嘲混じりに独り言ちるユナ。

 一瞬の決断が生死を分ける場面だった。どうあれ偽物に大国の舵を預けておくわけにはいかない。

 だから反撃する以外の選択はなかったが……まずいことになった。

 国の頭が挿げ替えられているなど、想定の中でも最悪の一つだ。


 まさか。米国そのものが奴らの手中に――。

 いや――。


 彼女は最悪の最悪をすぐさま懸念から除外する。

 それならば、ACWを用いてTSP狩りを続けている国の方針を放置しておくはずがない。

 つまりこれは国ぐるみではない。個別の事件であって、本物は誘拐されたか殺されてしまっただけだ。

 だが事実そうだとして、現状の救いにはならない。

 銃声を聞き付けてなだれ込んできた『何も知らない』シークレットサービスたちを一瞥し、彼女は歯噛みした。


「やってくれたなちくしょう……!」


 実際、奴らの目論見は成功していた。

 まさか奴らもこの程度の策で自分がやられるとは思っていないだろう。

 それでも仕立て上げることはできる。

 TSP捜査の専門家に詳しく調べさせれば無実は晴れるかもしれないが、現場は明らかに大統領暗殺の実行犯としか見えない。

 真面目に職務を遂行せんとする警備員を撃ち倒すのは、さすがに暴れ女馬の彼女にもできかねた。

 ユナは気力強化を脚にかけ、力任せに防弾ガラスを蹴破った。直ちに逃亡を選択するよりなかった。


「追え! 逃がすな!」「なんて強引で乱暴な奴だ!」

「くっそ! 私だって無暗に壊したいわけじゃないっつーの!」


 勢いを殺しつつ着地を決めると、愛機ディース=プレイガに《アクセス》し、敷地内をかっ飛ばしながら逃げ去っていく。

 道中を阻む者はすべて無視するか手傷を負わせるに留め、とにかく逃げ足を急ぐ。

 いかに国家最高権力を守る手練れと言え、超越者と一線を張り続けてきた彼女の相手にはならない。

 包囲の手が回るより早くホワイトハウスを抜け出し、市街地を駆けつつ通信を図る。


「タク、聞こえるか!? おいタク!」

『どうしたんすかユナさん。いきなり血相変えて』


 事情を知らない呑気な部下に、ユナはいらいらしながら怒鳴った。


「大統領が偽物だったのよ! TSPが化けてた。殺すしかなかった!」

『ええっ!?』 

「おかげで私は犯人様だよ。見事追われる身さ。いったん身を隠して立て直す」

『それで僕はどうすれば』

「国内のことと、この件の調査は任せる。ボストンの仲間にもすぐ連絡しといて」

『わかりましたよ。ユナさんマジトラブルに愛され過ぎじゃないっすか』

「うっせえ」


 QWERTYのアメリカ支部はボストンにある。何も知らないまま突入されるのは避けたい。


『ただ、彼らは下手に動かさない方がいいかもしれませんね』

「……かもな」


 ユナの『単独犯』であることは調べればすぐにわかる。無駄に抵抗して心証を悪くすることもないだろう。

 ただ取り調べの間、当面は機能停止か。やってくれる。


『とにかく任せて下さい。絶対に無実を証明してみせますんで。それまで無事でいて下さいよ?』

「大丈夫さ。私を誰だと思ってる――ちっ。もう追ってきたわ。じゃあね」


 通信を切り、一度だけ大きく息を吐いてすっぱり気持ちを切り替える。

 哀しいことに、追われる身となるのも一応想定済みではあった。

 彼女は無限武器庫を利用して適宜スパイク装置等の妨害をバラ撒きつつ、バイクの小回りを最大限活かした。

 車間を縫うような神業的運転で追っ手を撒いていく。

 ワシントンD.C.は政治の中心であり、街並みも整然とし過ぎている。身を隠すには適さない。

 道なりに北へと抜ければ、アメリカを南北に貫く国道1号線がずっと続いている。


「しばらく裏町で時間でも潰すか?」


 ユナは思案した。

 このまま数時間走って行くと、やがて米国最大の都市ニューヨークに辿り着く。

 あそこには公権力の及びにくい影の領域がある。もっぱらTSPや犯罪者の隠れ蓑になっているのは知っている。

 奇しくも敵と同じ穴の狢とは。

 頭を抱えたくなる。まるでおびき寄せられている気がしないでもないが、贅沢を言える状況ではない。

 彼女は意を決すると、アクセルを踏みしめてさらに加速した。

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