24「星海 ユナ、大統領と面談する」
[現地時間3月21日 10時48分 ワシントンD.C. JBAB]
JBAB(Joint Base Anacostia–Bolling)は、ワシントンD.C,南東地区に位置する米空軍基地の一つである。
東京からワシントンまでの距離はおよそ11,000kmあり、軍用輸送機でも13時間半ほどかかる長旅となる。
「あー凝った凝った」
星海 ユナは退屈なフライトを終え、肩を回す等して凝り固まった身体をほぐしていた。
一つ大きなあくびをかましてから、長旅を共にした隊員に尋ねる。
彼女はフェバルではないので、言語が自動翻訳されるわけではない。自前の流暢な英語が口から紡がれる。
「お疲れ。あとどのくらいかかるんだっけ」
「ホワイトハウスまでは車でもう30分足らずさ」
「りょーかい」
観光気分はなく、送迎車に乗ってさっさと目的地へ向かう。
やがて近付くにつれ、あの男の面の皮の分厚い様が嫌でも浮かんできて、彼女はもう今からうんざりしている。
「はぁ~」
「ちっとも楽しくなさそうだな。お姉さん」
「あんなクソジジイと二人っきりでデートして、心ときめかせる女子がいるか?」
「おっと。あれでもボスなんだ。そいつ(悪口)は聞かなかったことにしてもいいかな」
「頼むわ」
苦笑いを添えて口止め料のチップを弾みながら、彼女はウインクする。
取引はつつがなく成立した。
日本のクソ狸といい、こっちのクソジジイといい。
必要性は理解するが。政治家ってやつはどいつもこいつも腹に一物抱えていて、気持ちの良い連中ではない。
特にゴールマンという男は、何度か会ったことはあるが輪をかけて胡散臭い。どうにも野生の勘が心を許さないのだ。
とは言え世界最強の国であり、「お得意様」の助力要請を無下にはできない。
さて、どんな無茶難題が吹っ掛けられるのか――。
彼女の計算高さは、いくつもの想定を頭上に描いていた。
***
[現地時間3月21日 11時30分 ホワイトハウス]
スタッフから丁重な歓待と身体検査を受けた後、応接室へ招かれる。
手持ちの銃は予め没収され、彼女の前後はシークレットサービスが押さえている。
やがて扉が開かれると、彼女は一人の男と対面した。
すらりとした長身に、歳の割に引き締まった肉体が高価なスーツに収まっている。
元は鮮やかな金髪だったのが、年月を経て色あせた白髪になっているが、若い頃はたいそうハンサムだったことだろう。
こうして「世界最強の男」と「世界最強の主婦」が相対するのは、もう幾度目にもなるが。
彼を視界に収めた途端。
ユナの眉がピクリと動き、彼女は誰にも気取られない程度に目を細めた。
「ようこそ。レディユナ」
差し出した彼の手を、だが彼女は決して取ることをしなかった。
ゴールマンは不思議に思い、小さく首を傾げる。
「はて。東洋の暴れ女馬は、しかし礼儀をわきまえていたはずだが?」
「知ってるでしょ。私はまどろっこしいのは嫌いでね。これはどういうつもりだ?」
「どういうつもりとは? 合衆国大統領自ら助力を乞うことの意味を知らぬ君ではあるまい」
「ああ。本来だったらな」
そこでユナは明確に禁を破った。
話し合いの場で保持が許されぬもの――突如虚空から銃を取り出すと、一際声色を冷たくして問いかける。
「なああんた。いったい誰なんだ? 本物はどこへ行った?」
「――なんだ。もうバレてしまったのか」
男はぎょろと目を見開き、しわがれた顔から若々しく白い歯を剥き出しにする。
同時に、両脇を固めていたシークレットサービスが銃を抜き出す。
そして、乾いた銃声が響いた。




