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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
金髪の兄ちゃんともう一人の「私」

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エピローグ「踏み出す一歩」

 昼休み。体育館では、みんなが楽しそうにドッジボールをしようとしていた。

 今日の俺には決意があった。絶対に仲間に入れてもらう。一緒に遊ぶんだ。


「ねえ」


 クラスメイトの輪に声をかけると、何人かが振り向く。

 反応は色々だった。嫌な顔をする人、馬鹿にしたみたいに笑う人、何でもなさそうにする人。

 俺はあえて気にしないで言った。


「俺も仲間に入れてくれない?」


 俺のことをしょっちゅうからかってくる奴の一人、前田が嫌な顔で言ってきた。


「なんだよ。星海のくせに」

「頼むよ。入れて欲しいんだ」

「いやだね! お前がボール触ったら、星海菌が移るだろ~」


 周りから笑い声が漏れる。

 前田の悪口にも笑い声にも構わずに、俺はみんなのことを正面から見つめて、もう一度頼み込む。


「ちゃんとやるから。お願い。入れてよ」

「だってよ! どうする?」


 すると、周りはちょっとざわざわして、どうしたら良いのか反応に困っている。

 俺はどきどきしながら、黙って答えを待っていた。

 やがて、クラスのリーダー格の人が、その場を落ち着かせるように言った。


「まあまあ。別にいいだろ」

「ちぇっ。しょうがねえな」


 前田が渋々引き下がって、リーダーが俺に話しかけてきた。


「星海君。ちょうど外野が一人足りなかったんだ。それでもいいなら入れてあげるけど?」

「うん。全然いいよ」

「よし。じゃあ人数も足りたし始めるか!」


 やった! 入れてもらえた!

 嬉しくて飛び上がりたい気分になる。

 でもあんまり変なことすると目立つから、大人しくしておこう。


 グーチーで、前田とは一緒のチームになった。

 ゲームが始まった。

 外野でじっと待つ。

 俺はサイドにいた。中々ボールは来ない。

 そのうち、次々とお互いの内野にボールが当たっていった。前田にもボールが当たって、こっちに来る。

 あいつは、俺の反対側についた。

 そしてついに、たまたまだけど、俺のところにボールがきた。

 拾い上げると、当たり前だけどみんなが俺の方を見てる。

 いつもはそんなことないから、不思議な気分だった。

 あっちこちからヘイ! とボールをよこすように促される。

 慌てず落ち着いて、周りを見回してみた。

 前田の近くに、ぽけっとしてる相手チームの内野がいる。

 チャンスだ。協力しよう。

 俺は躊躇わないで声を張り上げた。


「前田! パス!」


 一生懸命ボールを投げる。

 それは綺麗なアーチを描いて、前田の手元にすっぽりと収まる。


「おっと!」


 ボールを受け取った前田は、すぐさまそれを投げて、ぽけっとしてた内野に当ててくれた。


「よっしゃあ!」


 調子良くガッツポーズを決めて、内野に戻っていく。

 そのとき、前田は俺の方を見て、ちょっと照れ臭そうに褒めてくれた。


「星海。今のはナイスだったぜ」

「うん!」


 そこでやっとわかった。

 クラスメイトとの問題なんて、家の問題に比べたらずっと小さなことだったんだって。

 俺の気持ちと態度次第で、どうとでもなる問題だったんだって。

 小二という、まだ良い意味で子供らしく、素直な年齢だったからこそ容易にクラスの輪に戻り得たということを、俺はそのとき知らなかったけれど。

 とにかく、このときの前田の言葉で、やっていけそうだと思ったんだ。


 それからも、俺は所々で周りを助けるプレーをした。

 自分よりもみんなが気持ちよくプレーしてもらえるように。

 積極的に声も出していった。


「なんだ。暗いやつかと思ったら、結構明るいじゃん」


 誰かのそんな声が、聞こえたような気がした。



 ***



 季節が流れた。

 俺はすっかりクラスに溶け込んで、前田とも普通に話せるようになっていた。


「九九って面倒だよな」

「でも、筆算の掛け算やる時に使うし、知らないと日常でも困るよ」


 それを聞いた前田が、怪訝な顔を浮かべた。


「お前、今どこまで進んでるんだよ」

「小四の教科書範囲やってる」

「おいおい。マジかよ」

「勉強頑張ろうと思って。ついでに色んな本読み始めたんだ。なんか覚えようと思ったら、一回読んだだけでなぜか簡単に覚えられるんだよね。楽しくてさ」

「はあ。羨ましいな。俺なんて嫌なのに週三回塾通わされてんだぜ」

「はは。大変だね」

「ホントだよ。あー遊びてえ」


 放課後には、よくいつものメンバーで遊ぶ。

 ヒカリとミライだ。


「遅れてごめん。掃除が長引いちゃってさ」


 軽く詫びたら、ミライは退屈そうにあくびをしてる。


「待ちくたびれたぜ。置いてってやろうかと思った」

「悪いね」


 ヒカリが笑顔で言った。


「今日はどこ遊びに行こうか」

「ちょっと遠出してみるか。探検ってノリで」


 ミライの提案に、俺は賛成だった。


「いいね」

「楽しそう」


 ヒカリも同意を示す。


「よし。じゃ、行くか」

「うん」

「オッケー」


 俺たちは、今日も三人で歩んでいく。

 ふと見上げると、どこまでも綺麗な青空の向こうで、誰かがそっと見守ってくれているような気がした。

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