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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
地球(箱庭)の能力者たち

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532/711

17「東京決戦 7」

[1月20日 14時03分 東京 青山周辺]


 バイクで地上へ駆け上がったユナは、直後、待ち構えていた大量の敵から熱烈な歓迎を受けた。

 もしタクに情報隠蔽工作をしてもらわなければ、待ち伏せから一斉射撃の蜂の巣を食らっていたことだろう。

 現状助かっているが、すぐに構え始めたところを見るに。

 やはり何者かの指示か。統制が取れている。

 ユナは野性的な感で、瞬時に優先順位を付ける。

 運転を止め、まず当面の危機を脱する。

 バトルライフルが火を噴き、3点バーストが無駄弾なく敵の頭を吹き飛ばしていった。

 建物の影から狙っていようと、ビルの窓から構えていようと。

 生命反応と殺気のすべてを読み尽くし、ことごとく的確に対処していく。

 この辺り、考えるよりも先に身体が動くよう染み付いている。

 地球の戦いは防御がどうしても紙になる。

 やられる前にやれが鉄則。極めてシビアなのだ。

 あらかた近場の脅威を撃ち倒し、バイクに足をかけてリロードしながら、彼女は冷静に周囲を観察する。

 既に幾重にもバリケードが構築され、その手前にも奥にも鬱陶しいほどの人だかりができている。


「考えたな。人の壁を作って物理的に止めようってか」


 見れば、カタギでなさそうな人間に加え、本来市民を守るはずの警察官や自衛官までが混成軍を成している。

 彼女はQWERTY隊員の言葉を思い出していた。

 確か操られているとか何とか言ってたな。催涙剤では止まらない強度だとも聞いた。

 ユナは舌打ちし、バイクを異空間へしまった。

 二の足で立つ。

 彼らは敵だが、多くは能力の被害者でもある。

 さすがに全員轢き殺してしまうほど、無遠慮にも無神経にもなれない。

 それにそんなことをしては、すぐにバイクがいかれてしまうだろう。

 人体は意外と硬いからな。骨とか。


 ――昔なら構わず皆殺しにしていただろうか。


 我ながら随分丸くなってしまったものだ、とユナは内心独り言ちる。

 建物を跳び移っていこうにも、近辺は不揃いな高層ビルばかりで難しい。


 ……結局いくらかは死なせることになりそうだな。


 白兵戦を覚悟して、ユナはバトルライフルを構える。

 もう一度敵の群れを睨み付ける。

 よく知っている――恐怖で怯えた人間の顔だ。

 正気を失わせ、そこに単純な命令で上書きすることで、思いのままに動かしているのだろう。


「人の悪感情を利用しようだなんて、胸糞悪い話だな」


 吐き捨てるように言ったユナは。


「私は聖人君子じゃないんでね。通してもらうよ。恨むんなら手前をそうした連中を恨みな」


《バースト》は弱めにかけっ放しにしておく。継戦能力と速度の両立がベストと彼女は踏んだ。

 そら、早速役に立ったぞ。

 ユナは眉間を狙う弾丸を、はっきりと視認しつつかわした。

 雨あられと銃弾が飛び交う中、涼しげにしている。

 優れた眼力が、彼女に当たる軌道だけを完璧に見極めているのだ。

 すかさず反撃のラピッドファイアを放つ。

 威勢良く撃ちまくっている近くの連中から、バラバラに始末していく。

 ほとんど見もせずに数百メートル先の相手にも正確にぶち当てられる銃撃センスは、もはやそれ自体が異能に等しい。


 ――ん。


 背後から妙な空気の流れを感じたユナは。

 躊躇いなく側面に転がり出し、受け身を取ると、即座に銃口をそちらへ向けた。

 彼女が立っていた位置を、何かが通過していく。

 大型の弾。

 彼女がちらと振り返ったときには、バリケードの一部に爆炎が吹き荒れていた。


「あっぶな。焼夷弾撃って来やがった!」


 憐れ、直撃を受けた者たちは黒炭になっている。

 平気で味方ごと巻き込もうとは。滅茶苦茶するじゃないか。

 操ってるから使い捨てだ。どうなろうと関係ないっての?


 ほんっと胸糞悪い。


 静かに怒りを覚えつつ、ユナは思案する。

 正直負ける気はしないけど。さっきから地下崩落と言い、敵はなりふり構わずだ。

 このままだと皆殺しルートになってしまう。

 しかも開けた位置では良い的だ。

 何も馬鹿正直に大通りをまかり通っていくこともないな。

 建物を直接飛び移ることはできなくても――よし。

 そこまでをわずかな時間でまとめると、攻撃に注意しつつ、横断歩道を一気呵成に駆け出した。

 最も近くのビルに目を付ける。

 ひと蹴りで二階の高さまで飛び上がると、即座に武器換装。

 窓ガラスをリルスラッシュで叩き斬って、飛び込んだ。

 再度瞬時の換装で、再びバトルライフルを手にする。

 一瞬、既に撃ち殺していた敵の死体が視界の端に映る。

 初っ端撃ちまくっていたあいつか。

 一瞥だけくれて、彼女は猛進する。

 屋内廊下を走り抜け、国会議事堂の方向へ少しでも近付いていく。

 地図は頭に叩き込んである。近場の建物の種類と位置や、その間取りも。


 敵さんよ。私のルートに付いて来られるか。


 彼女の予想通り、屋内は配置が手薄だった。というより、窓ガラス沿い以外に配置の余裕はなかったのだろう。

 TSGの落ち度があるとすれば、想定相手が普通の人間であったことに尽きる。

 垂直跳びで二階の高さまでジャンプするようなものは――まあ考えてないだろうな。

 我ながらだいぶおかしいことやってるなとは思いつつ、ユナはひた進む。

 反対側の端を豪胆に蹴り破り、大通りから小路地へ。

 既に付近の生命反応は見繕ってある。

 跳躍体勢のまま、リアルタイムに動く照準をきっちり合わせ、正確に邪魔者だけを撃ち殺す。

 脅威の跳躍力で反対側のビルまで届いた彼女は、再び窓ガラスをぶち破って進み続ける。

 国会議事堂の最近辺になれば、周りからめぼしい建物も消える。

 だがあと数百メートルはこの手で稼げるはずだ。


 そうして、いくつか建物を乗り換えながら、おおよそ「最短距離」を進んでいったユナであったが。

 突然、奇妙な縦方向の加速度を感じた。

 浮遊する感覚。


「おっと。今度は何だ?」


 身の危険を感じた彼女は、即座にギアチェンジ。

《バースト》をフルスロットルで入れ、壁をごぼう抜きにしながら突き進む。

 建物の端に到達してみれば。やけに視点が高い。

 既にビル全体が空高く浮かび上がろうとしていた。

 正確なところはわからないが、テレキネシスか重力系能力者の仕業に違いない。


「まったく次から次へと。手品みたいだな!」


 ここにいてはまずい。潰されるか叩き落とされる。

 判断は早かった。

 壁を蹴り、あえて自ら加速度を付けてまで急降下する。

 フル《バースト》なら、数階程度までの高さであれば平気で済む。

 着地した途端。

 案の定、真上で何か潰れる大きな音がした。

 いとも容易く破砕される高層ビル。

 まるで力を見せ付けるかのよう。随分と派手にやってくれる。

 次々と降りかかるコンクリートの瓦礫を、小さいものは見もせず手で振り払い、大きいものはしっかりと避けた。

 辺り一帯が更地になる。

 道路の向こうに、いかにもらしい黒髪の少年が見えた。

 同じ日本人か。

 手をかざし、堂々として隠れもしない。


「生意気してんな。一丁前に」


 互いに声の届く距離ではない。

 少年はただ歯をむき出しにして笑うと、掌を彼女に向けた。


 ――来る。


 危機を感じたユナが大袈裟に横っ飛びすると、周囲のコンクリートがバコンと巨大な音を立てて凹んだ。

 空間が歪んでいる。巻き込まれれば即死だ。

 冷や汗を感じながら、しかし銃はぶれずに構える。

 これ以上、デモンストレーションに付き合ってやる義理もない。

 バトルライフルから銃弾が飛び出す。3点パーストを5回、連続で撃ち込んだ。

 だが。能力が自動展開でもされているのか。

 下方向に反れていく銃弾を、ユナの底上げされた視力は捉えていた。

 ここまでの動きから判断する。

 なるほど。本質は重力を操る能力か。


 少年が反撃に動いた。

 無数の石礫が浮き上がり、彼女に向かって撃ち込まれていく。

 一つ一つが銃弾ばりに早く、それでいて質量はより大きい。

 一つでも当たれば、やはり無事では済まない。


《アクセス:サブマシンガンYS-Ⅳ》


 手数には手数で対抗する。

 ユナはサブマシンガンをわきに抱え、めった撃ちにした。

 それもでたらめではない。しかと攻撃の一つ一つに狙いを付けての神業である。

 すべての礫を破砕し、相殺する。

 これにはさすがに少年も驚きを隠せないようだったが。

 まだ絶対の優位があると思っているのか、纏う雰囲気には余裕がある。

 彼が再度手をかざすと。

 ユナは突如、がくんと膝が折れた。

 危うくへばりつきそうになる。


 そうか。

 狙い打ちできないからと、広域に重力場をかけたのか。


 だが黙ってやられっ放しの彼女ではない。

 懸命に歯を食いしばり、次なる兵器を取り出す。


《アクセス:多連装ロケットランチャーYS-Ⅵ》


 設置型の多連装ロケットランチャーだ。多少の重力には負けない推進力がある。

 点でダメなら、面で吹き飛ばす。

 個人兵器としては最大級の火力が、ただ一人の少年に向かって放たれる。


 銃器の類は通じない。少年はそう言いたいのだろう。

 またも手をかざし、次々と飛び来るロケット弾を横に反らしていく。

 彼女の無力を知らしめるような動きだった。


「あんた。確かに生意気なだけのことは、あるね」


 ユナは相手を認める台詞を発しつつも、バトルライフルを構えていた。

 敵が攻撃を捌き切るより先に、追撃の銃弾を放つ。

 だが重力場のせいか。

 狙いが逸れ、明後日の方向へと銃弾は飛んでいく。


 そのように少年には見えた。


 彼女の無駄な足掻きを認識した辺りで、とうとう多連砲も尽きる。

 あとはもう、ろくに動けない女がそこにいるだけ。

 どんな武器だろうと。何をされても効かない。

 こちらはいかようにも料理できる。


 少年は勝ち誇り――。


 そして、斃れた。


「けど、お姉さんに挑むのはちょっと早過ぎたな」


 力ばかりあっても、計算が追い付かないだろう?


 胸を押さえて苦しむ彼に、物悲しい視線をくれるユナ。

 やはり子を持つ者として、少年兵を殺すのは気分がよろしくない。

 だがこれ以上、苦しむことがないようにと。

 慈悲の弾丸でもって、しかと頭を撃ち抜いた。


 この世界じゃ、大概の能力者を殺すのに大袈裟な異能は要らない。

 派手な技も、大掛かりな兵器も一切不要。

 銃弾一発。急所にぶち込めばそれで事足りる。

 防御に特化した能力でもなければ、そんなものを防ぐことも極めて難しい。

 この子は、馬鹿の一つ覚えで空間を捻じ曲げてしまった。

 ユナはそれによる軌道の歪みを考慮に入れて、やや上方に弾を撃ち込んでいた。

 かえって能力を行使したために、当たってしまうこともあるのだ。

 確かに、純粋な能力の強さでは目を見張るものがある。 

 地球にいる限り、ユナに直接高層ビルの破壊などはできない。

 だが自信過剰は、すなわち命取りとなる。

 彼はサポーターに優秀な防御系能力者を付けるべきだった。

 緒戦のあの息の合ったコンビのように。そうすればもう少しまともな戦いになっただろう。

 そのことを学ぶには、命という授業料は高過ぎた。


「はあ……。こんなことばっかさせやがって」


 愚痴を一つだけ吐いて。ユナは開けた道を進んでいく。

 激しい戦闘の余波か、ごく近くに生存敵対者はいない。


 国会議事堂まで、あと700mというところだった。



 ***



[1月20日 14時10分 東京 東京都内某所]


「うぐぐぐ……! ぜんっぜん捕まらないじゃないの!」


 忙しなく指示を飛ばすカーラスも、ことごとくが一手も二手も先を行かれてしまい。

 彼と同じく、屈辱と敗北感を味わっていた。

 まさかここまで化け物だったなんて。

 たかが一人の女と思っていた。

 単身フランスを陥れた自負もあった。まして東アジアの小国で、やれないことはないと。

 何みんなたらたらやっているのと。

 その自信は打ち砕かれた。

 だが。彼女はコーダと違って、無駄なプライドは持ち合わせていない。

 かえってどこかさっぱりした表情で、投げやりに締めた。


「あーやめよ。やめ」


 彼女にしてみれば、人を配置することも、操ることも。

 どこか戦略シミュレーション染みた遊び感覚だったのだ。


「今回は私の負け。これ以上、貴重な仲間たちを失うことはないわ」


 彼女が人間扱いするのは、同じTSPと自分たちへの理解者。そのくらいである。

 彼以外にやられたのも含めれば、既に十人。今日だけで貴重な同類が命を失っている。

 大規模作戦となれば、仕方ないところではあるが。

 無能力者の扱いはぞんざいな彼女も、その点は心が痛いのだ。


『だから最初から私に任せておけと。そう言ったであろう』


 通信機の向こうから、冷酷な男の声が響く。

 まったくその通り。彼女はあっさりと認めた。


「そうねー。元々あなたが主役だったんだし? 任せるわ。『炎の男』さん」



 ***



[1月20日 14時12分 東京 永田町 国会議事堂付近]



「死にたくなかったらどけ!」


 隠れ蓑になるような、目ぼしい建物もなくなり。

 いよいよ正面突破しかなくなったユナは、銃を手に爆走していた。

 言っても無駄だと知りつつ、一応のエクスキューズを飛ばしている。

 先の戦いで息を乱しながらも、弾筋は微塵も乱れない。

 過たず彼女の脅威となる敵だけを、正確に排除していく。


 ――なんだ。


 また何か、来る。


 温度変化。そのわずかな予兆を読み切って。

 サイドに避けたユナの鼻先を、突如発生した巨大な炎がかすめた。


 ……こいつは、よく知っている。


「やっとか。ついにここまで来たか――アレクセイ」


『炎の男』の気配を感じ取り、彼女は目をギラつかせる。

 彼の得意とするものは、パイロキネシス。シンプルな発火能力である。

【エグゼクター】の射程距離は666m。その正確な距離を彼女は知る由もないが。

 彼女は知っている。奴の厄介な能力の恐ろしさを。

 あの男は、最低でも数百メートル離れた地点から、建物を狙い通りに炎上させることができた。

 犯行は大胆かつ一瞬のこと。気付いたときには後の祭りさ。

 神出鬼没。完全犯罪こそを信条とした、慎重かつ狡猾な男。

 だと言うのに。白昼堂々占拠活動とは。

 どういう風の吹き回しか。


「どうした。こんなそよ風じゃネズミも殺せないわよ」


 二度、堂々たる動きで炎を避けてみせる。


 しかし、不可視の位置をこれほどピンポイントに狙える能力であったか。

 気を読む技術、あるいは人の熱でも感知しているのか。

 死の淵を乗り越えたことで、どうやらあいつの能力も一段階進化したのかもしれない。


 さて。気付けば、周囲にあれほどいた人もなく。

 目的地までは拓けている。ただ真っ直ぐ行けばそこへ着く。

 もちろんその真っ直ぐが、一筋縄ではいかないだろうが。

 感心と呆れをもって、ユナは呟いた。


「あくまで直接対決をご所望ってかい。まったくあんたらしくもないね。そんな潔い男、私は知らないんだけどな」


 三度、無から突如発生する炎を完璧に見切り。

 肌すれすれのところでかわし。


「いいさ。お望みなら付き合ってやる」


 ユナは不敵に口の端を吊り上げた。

 しかしすぐ、への字に唇を堅く結んで。

 今や視線の向こうにそびえ立つ国会議事堂を睨み上げる。

 もう目と鼻の先。そこに奴はいる。


「私はなあ。めっちゃむかついてんだ。東京を滅茶苦茶にしやがって」


 うちのユウがどれだけ悲しんだと思ってる。うちの旦那がどれだけ冷や飯食ったと思ってる。

 死ななくても良い奴らがたくさん死んだ。ケイゴだってそうさ。

 お題目に乗っかってテロを始めた奴もいるだろう。さっき死んだ奴だって、そうだったかもな。

 見たくもないものばかり見せて。やりたくもないことばかりさせやがって。

 あんたら。絶対許さない。


「アレクセイ! 今からてめえをぶっ殺しに行く! そこで首洗って待ってろ!」


 怒れる女狂戦士が吼える。

 5年前に置き残した伝説。狙撃であっけなくケリを付けてしまったもの。

 歴史にifは存在しないが。地獄の底から奴は帰ってきた。

 きっとこの日のために。真の決着をつけるために。

『炎の男』と『地上最強の女』。

 直接相まみえたならば、果たしてどちらが勝っていたのか――。

 歴史的テロ事件の影で、大いなるリターンマッチが始まろうとしていた。

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[一言] 因縁のリターンマッチ開幕。
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