12「東京決戦 2」
[1月20日 13時15分 QWERTY本部]
「はあ!? 国会議事堂が占拠されたぁ!?」
大好物のカップラーメンをすすりながら昼のニュースを確認していたタクマが、緊急速報に仰天していた。
内部の様子はわからないが、最低でも報道陣は皆殺しにされてしまったことも伝えられる。
総理大臣を始めとした国の重鎮たちや、天皇陛下がおられることも報じられる。
外部映像では、議事堂の一部に結界らしきものが張られている様子も確認できた。
いざというときのため、昼寝していたユナも飛び起きてきた。
彼女もニュースを確認し、深刻な顔で呟く。
「ついにやりやがった。西凜寺のジジイも殺されたのか?」
「さあ。そこまではわからないですけど……」
引き続き占拠しているという事実がカギかもしれない、とタクは考える。
重要人物を皆殺しにしたのなら、さっさと引き上げるはずだ。
「あの結界は国側の誰かの能力かもしれない。連中、まだ立てこもっているじゃないですか」
「なるほどねえ。生き延びたお偉いさんは助けを待ってるってか」
「だとしたら、時間は限られるでしょうね。あれじゃ外に出られない」
緊急の備えはあるはずだが、結界の狭さを考えると期待はできない。おそらく備蓄は結界の外にある。
高齢であることを考えると、もって一日や二日というところだろうか。
いや、それ以前の問題として、あの強力な結界がいつまで持続するかわかったものじゃない。数時間以内にケリを付けなければ危ないかもしれない。
話しているうち、続報が入る。
ほぼ同時刻に霞が関襲撃。さらに23区各地で警察及び自衛隊とTSGとの戦闘が始まっているようだった。
恐るべきは、これまでの事件と桁違いの人数である。
暴徒と化したヤクザ者たちが、少なくとも数千人規模で活動していると見られた。
とりわけ事件の中心地である永田町は手厚く武装テロリストたちが回されており、戦闘は既に激化していた。
「これって……! フランスのやつじゃないですか!」
女性隊員が青い顔で口元を押さえる。
フランスでも類似の事件があったことを、彼女は覚えていたのだ。
「どうしますか。ユナさん」
「どうするも何も。行くっきゃないでしょ。お国の危機だ」
ポキポキ指を鳴らすユナは、不敵な笑みを浮かべる。
狂戦士になぞらえられるだけのことはある。大軍団を敵にしても気後れなどなく、むしろ気合十分だ。
「けど、空から一発で飛んでいくのは……ダメだな。良い的になるだけだ」
頭のどこかで冷静な計算も忘れない。
ここまで大々的に占拠されては、いつもの手は使えない。陸路で乗り込むしか手はなさそうだった。
さて、QWERTY本部は東京でも23区の外にある。金の問題もあるが、新たに基地を建てるに十分な広さの土地がそこにしか取れなかったためだ。
能力や銃弾雨あられの激戦地を切り抜けて永田町に乗り込むのは、相当に難題だった。
普段使っている乗用車に扮した装甲車では、耐久性に問題があるか。
そこまで考えたユナは、目立つリスクを天秤にかけて、決断した。
「軍用車があっただろ。あれで行く」
まさか東京で使う日が来るとは思わなかったが、万一に備えておいたのが役に立ちそうだ。
「私は荷台で車を守る。運転は浅間に任せる。頼めるか」
「行けます。ユナさん」
あらゆる乗り物の運転にかけて、ユナの次に上手いと定評のある浅間隊員が、力強く頷いた。
「タクはいつも通りバックアップを。政府関係者から連絡あったら繋いでくれ」
「了解っす」
とそこへ、ユウを連れ立ってクリアハートが入ってきた。
ユウはいつになくそわそわし、クリアはキリっとしている。
毎度のことなら、【神隠し】の出番と考えて来たのだ。
「わたしの、務めは」
「今回は大丈夫だ。しっかりユウの子守りしてておくれよ」
「ん」
クリアが敬礼したところ、彼女の手を振り切って、ユウは母に縋り付いた。
「おかあさん!」
人の痛みがわかるユウは、たくさんの戦闘の声に苦しんでいた。
目に涙すら浮かべて、必死に止めようとする。
「あのね。きょうね、あぶないがいっぱいなの! おかあさん、いっちゃやだ!」
「ユウ。一丁前に心配してくれるのかい」
「だめなの。いくらおかあさんだって、しんじゃうかもしれないよ!」
心配でいっぱいのユウの頭を優しく撫でて、ユナは微笑んだ。
「危ないからこそ行くんだよ。助けに行くんだよ」
「でも……!」
「大丈夫。お母さんはすごく強いんだから」
指でピストルの形を作って、ユウに向かってバン! とやった。
いつもながら、自分を安心させるためにやってくれる決めポーズ。
お母さんは、やっぱりお母さんだ。
どんなに言っても止まらないのだと、幼心ながらにユウは理解した。
ぐっと歯を食いしばってこらえるユウの頭を、もう一度ぽんと軽く叩いて。
気持ちを受け取ったユナは、みんなに告げた。
「じゃ、行ってくる。ちょっくら日本を救いにね」
浅間を伴って颯爽と発つ母の後ろ姿が、小さなユウの目にカッコよく焼き付いていた。




