217「世界の記憶を求めて 2」
『そんなものが使えるのかい? キミたちの不思議な力には驚かされてばかりだよ』
『はい。正確には過去の出来事を映像化する魔法なんですけど』
その言葉を聞いて、俺には思い当たる節があった。
忘れもしない。
かつてエルンティアで、俺はリルナと母さんの記憶を見たことがあった。
ルイス・バジェットの研究所もまるで新居のように綺麗な状態だった。
おかげで宇宙要塞エストケージに行くための宇宙船を見つけられたのだ。
今にして思えば、あれは何らかの強力な時空魔法に違いない。
そして、時間停止魔法を操れるアニッサなら――。
A.OZ――あれが彼女で、彼女が今言ったのがあの魔法なのだとしたら。
すべての辻褄が合う。
『もしかして、君はあのときの……?』
アニッサはあえて何も答えず、曖昧に微笑むだけだった。
だが否定も肯定もしないその態度から、感情の読める俺はかえって確信を深めていた。
そうか。この子はもしかしたら、陰ながらずっと俺の旅を見守ってくれていたのかもしれない。
本当は気付かれてはいけない理由があったのか。
俺にバレてしまった今回は、腹をくくって協力してくれるみたいだけど。
俺に母さんの想いを教えてくれたこの子には、感謝してもしきれないくらいだ。
『あのときはありがとうな』
『あのときというのは?』
『ううん。こっちの話』
『むう』
横から口を挟んだハルがちょっぴり恨めしそうにしている。
君たちも女の話とかいうのをしてたんだからおあいこだよ。
『話を戻そう。世界の記憶を紐解くと言っても、狙いを決めないとあまりに情報量が膨大になってしまう。俺はラナという人間とラナソール成立の背景に的を絞るべきだと思っている』
『あたしもそう思うわ』
『聖書によれば、ラナ様は一万年前に実在した人物とされているよね。そして――』
『ああ。ラナソールは、ラナが亡くなったときにできたとされているんだ』
ラナの人生を辿ることがラナソール世界の成り立ちに繋がり、ひいては今の世界を正しく理解することに繋がるだろう。
そしてもしかしたら、「俺」の言う「本当のラナ」に会うことに繋がるかもしれない。
『となると、ラナ様にゆかりのある地を探していくのがいいってことだよね』
『そうだな。問題は、場所によってはダイラー星系列の警備が入ってたり、魔獣の巣になってるかもしれないってことか』
するとそこで、ランドとシルヴィアからお声がかかった。
「おーい。さっきからなに二人でじーっと考え込んでんだ」
「私たち、そろそろ退屈してきたわよ」
あ。またやっちゃったよ。
念話に夢中になってしまう悪い癖だ。
「ごめん。これからどこに行こうか考えててね」
「俺たちはどこへでも付いて行くぜ」
「魔獣倒すのでもダイラー星系列にカチコミでも、何でもやるわよ」
魔獣はともかく、ダイラー星系列にカチコミなんて物騒なことを言うなよシルさん。
そうだな……。
「聖地ラナ=スティリア――今はテロ事件のせいで跡形もなくなってしまったけれど、あそこはラナ生誕の地だったはずだよね」
「お? 次はラナ様の足跡を辿ろうってわけっか」
「そこに行けば何か掴めそうなの?」
「うん。アニッサに頼んで、過去を覗く魔法を使ってもらうんだよ」
「「なにそれすげえ(すごい)!」」
二人は元々ファンタジーの住人であるがゆえに、疑いもなく素直に称賛してみせた。
アニッサもまんざらではない様子で、
「ま。あたしに任せといて下さい」
と胸を張る。
そんな自負の見える彼女に、俺は尋ねてみた。
「ところで、転移魔法の類とかは使えたりしない? できればラナ=スティリアまで一気に飛べたらなと思うんだけど」
もし使えるなら、移動時間がぐっと短縮できる。
おんぶにだっこ状態だけど、緊急事態の今は頼めることは頼んでおきたい。
「使えますよ。時間操作魔法に比べたら簡単なので」
普通に使えるらしい。頼りになり過ぎてやばい。
「今さらっと時間操作とか、恐ろしいこと言わなかったか!?」
「ユウの周りには変なのが多いのよ。気にしてはダメよ」
二人にはもはや称賛も通り越して、理解が追い付かない世界らしい。
いや、俺のせいにされても困るんだけど。
でもなぜか俺の周りに集まってくるから、やっぱり俺のせいなのか?
まあいいや。
「じゃあ飛ぶので、あたしにつかまってくださいね」
全員が掴まったのを確認してから、アニッサが念じると。
一瞬の浮遊感を覚えて、ぱっと景色が切り変わる。
――この感じ。イネア先生のと同じやつだ。
俺の感覚は、またもや懐かしさを認めていた。




