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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
二つの世界と二つの身体

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185「倒れるシズハ 心配するハル」

[ミッターフレーション同日 トレヴァーク トリグラーブ市街地]


 暴徒と化した終末教信者が、刃物や銃や爆弾を手に続々と攻撃を仕掛けて来る。

『血斬り女』シズハは、『奇術師』ルドラと嫌々ながら共闘戦線を組んでいた。

 互いの性格こそ水と油であるものの、ルドラが敵の動きを縛ってシズハが仕留めるという連携の相性は非常に良かった。

 ゆえに激しい戦いが進むうち、自然と協力するようになっていたのである。

 彼女にとっては、あくまで仕方なくではあるが。

 戦闘中にも関わらず、懲りずに時折歯の浮いた台詞を投げかけるルドラに、シズハは苛立ったり無視したり呆れたりしながら、冷たい表情だけは変えずに淡々と敵を捌いていく。

 暗殺者でありながら殺しをあまり快くは思わないシズハであるが、一流のプロとして訓練されている。

 市民を脅かす敵に対しては、事前にマインドセットをしておけば躊躇いなく斬ることができた。

 また非常にうざいのであるが、ルドラが話しかけてくるのは、自分が張り詰め過ぎないようにとの気遣いであることを彼女は知っている。

 付き合いだけは長いから。だったら苛立たせるなとは思うのであるが。


 戦闘自体は順調に経過していた。

 敵は数こそ多いものの、個々の戦闘力は特殊訓練を受けたカーネイターとは比べるべくもない。

 一度に囲まれないよう気を付けて戦えば、負ける道理はない――はずだった。

 異変は突然のことだった。

 シズハが意識を失い、その場に倒れてしまったのである。


「シズハ……!?」


 見えない特殊な糸で敵を縛っていたルドラは、彼女の異変に気付き動揺した。

 まさか撃たれたのか?

 いや。この連中ごとき、彼女に限ってそんな失態を犯すはずがないと断ずる。

 敵の動きを牽制しつつ駆け寄ると、シズハは血の気の失せた青い顔でうなされていた。

 身体を調べてほっとする。

 外傷はない。撃たれたわけではない。

 だが呼びかけても頬を叩いても、目を覚ます気配はない。

 どうすべきか。

 このまま捨て置けば、狂信者の誰かに犯され殺されるのが道理だった。

 ボスの命令は終末教との戦闘である。

 文字通り解釈するならば、彼女の身の確保よりも戦闘を優先すべきであるが。

 しかし既に戦いは大勢が決している。自分一人が欠けたとしても、問題なく鎮圧はできるだろう。

 惚れた男の弱みもあった。捨て置くには忍びない。

 それにホシミ ユウとの関係もある。

 もしシズハを見捨てたなら、あいつは絶対に自分を許しはしないだろう。

 敵対した自分を生かすなど、反吐が出るほど甘い男ではあるが。

 やるときはやる奴だと、彼は正しくユウという男を理解していた。

 ここまでをわずかな間に考えて、溜息を吐く。

 彼は気を失ったシズハを背負って退却することを決めた。


「やれやれ。こんなときに呑気に居眠りとはねえ。世話の焼けるお嬢さんだ」


 力なくもたれかかる寝顔を見やる。

 先代が指導していた頃――幼少時から知っているが、本当に強く美しく成長したものだと思う。

 これでもう少し自分と打ち解けてくれたり、あわよくば抱かせてもらえるなら、何も言うことはないのだが。

 まあ無理な相談だろう。これまで自分が彼女にしてきたことを思えば。

 それに彼女には他に好きな人がいることは、既に調べが付いている。

 だが――。

 ルドラはにやりと笑った。

 胸が背中に当たるくらいは、役得ということで許して欲しいものだ。



 ***



[ミッターフレーションから数日後 トレヴァーク トリグラーブ市立病院]


 ハルは動けない自分にもどかしい思いを募らせながら、帰らないユウを待ち続けていた。

 ダイラー星系列による世界制圧や、ラナソールから生物が襲来してきたことは、連日紙面を騒がせる大ニュースになっている。

 その背後で何が起きていたのかを、彼女はレオンを通じてよく知っていた。

 だからこそ、今回の『事態』を誰よりも重く受け止めていた。

 彼女にとってとりわけ身近な問題は、入院患者の急増だった。

 全世界の十人に一人が意識を失ったと言われている。

 トリグラーブ市立病院もミッターフレーション当日のうちに満員となり、ほとんどの人は在宅看護を余儀なくされている。

 一部の医者や看護師まで夢想病に倒れてしまい、絶対的な手数が足りていない。

 予定していた手術も遅れてしまう可能性が高いという。仕方ないことだと思う。

 だがそのことよりも。

 ハルは、気が気ではなかった。

 ラナソールが壊れたあの日。

 とてつもない力を持つ何かと何かがぶつかり合って、世界を滅茶苦茶にしていた。

 レオンが中途半端に強かったからこそ、恐ろしさが身にしみた。今も毎日悪夢にうなされるほどだった。

 その片割れがユウ本人であると、あまりの力の異質さに彼女は気付けなかったが。

 もしや巻き込まれたのではないかと恐れていた。

 ユウに近しい実力を持つレオンでさえ、ただ手の届く範囲の人を守りながら、どうにもならない状況に振り回されるしかなかったのだ。


 ユウくん……。無事だよね……? きっと帰ってくるよね?

 ボク、信じてるからね。


 無力な彼女は、ただ祈り待つことしかできなかった。


 そして片割れのレオンは、壊れかけた世界で必死に抗い続けていた。

 彼女が憂いている今も、襲い来る異形の闇から人々を守るために聖剣を振るい続けている。

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