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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
二つの世界と二つの身体

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151「The Day Mitterflation 2」

『アセッド』に戻ると、まだ朝だと言うのに店は異様な空気に包まれていた。

 レンクス、ジルフさん、エーナさんも隅のフェバル席にいて、険しい顔で待機している。

 レオンも来ていた。

 ハルがメールをくれた通りに、俺にミューエレザの件を伝えに来てくれたのだろうけど。どうやらそれだけではなさそうだ。

 ミティは大丈夫だろうか。

 辛うじてユイの隣に立っているけれど、心がどこかへ行ってしまったかのようだ。

 事情については、ユイが話してくれた。


「終末教が、世界各地で同時武装蜂起しているだって!?」

「私もさっき聞いたばかりなの」

「冒険者の膝元であるここレジンバーク以外、ほとんどすべての都市で火の手が上がっている。既に神聖都市ラビ=スタの大神殿が占拠されてしまったそうだよ」


 レオンが、実に悲しそうに目を細めて言った。


「ただでさえ、向こうの世界でも大事件が起こっているというのにね」


 ヴィッターヴァイツが暴れているというこのタイミングで……。

 偶然なのか。いや、そうとは思えない。

 だけど、あのヴィッターヴァイツが終末教と手を組むなんてあり得るのか……?


「その大事件ってのはなんだよ」


 レンクスの問いに、レオンは暗い顔で俺に目を向ける。

 俺はやるせない怒りを感じながら、答えた。


「人がたくさん死んだ。たぶん……ヴィッターヴァイツだ。奴が人間爆弾を使って、無差別に都市を爆破しているんだ!」

「そんな。なんてひどい……!」


 いつもなら俺の心をよく覗いているユイは、初めて聞いたという顔でショックを受けていた。

 こちらでもミティの対応やニュースが入ってきて、聞き耳を立てる暇がなかったのだろう。

 ジルフさんも硬い表情で、怒りを滾らせているのが見えるほどだった。

 しかし言葉はあくまで冷静だった。


「ディスクによれば。向こうで人を殺せば、不浄なる死の想念とやらで世界の基盤が弱体化するという。考えられることではあったな」

「だからってマジでやるか普通?」

「まったくとんでもないことね。力があるからって何でもしていいわけじゃないのよ」


 レンクスとエーナさんも、それぞれ呆れ混じりに怒っているようだった。


「こうしている間にも、次の都市が狙われるかもしれない。俺、行かないと」


 ラナソールのことも気になるが、トレヴァークのことは俺にしか対処できない。

 ここはみんなに任せるしかない。

 それはレンクスも同じ心境のようだった。


「くそったれ。お前に任せるしかないのが心苦しいぜ」

「あまり無理はするなよ。また本体を見つけたら、今度こそレンクスと共に叩いてやる。頼んだぞ」

「はい。お願いします」


 本体さえ探知してしまえば、奴もトレヴァークに手を出している余裕はない。

 見つけて触れるまでが勝負だ。もうこれ以上の好き勝手をさせるわけにはいかない。

 レオンに向き直って、手を差し出した。


「レオン。ハルのところへ行きたいんだ。手を」

「お安い御用さ。トレヴァークをよろしく頼む」


 改めてみんなを見渡した。

 いざ行くとなると、一人俯いているミティのことがやっぱり気がかりだった。

 あんなことがあったんだ。無理もない。


「ミティ……」

「大丈夫……です。こんなときに、わたしだけ泣き言ばかりは言ってられないですから。頑張らないと、です」


 人前で泣きたいほど辛いけれど、懸命にこらえている。そんな表情だった。


「行って下さい。ミティからも、お願いします」


 後ろ髪を引かれる思いがしたけど。

 ミティの健気な意を汲み取って、ミチオの頼みを汲み取って。

 今は行くことにした。



〔ラナソール → トレヴァーク〕



 ***



 ユウがトレヴァークへ行って、私たちはラナソールの事件を何とかすることになった。

 もちろん私だけは間接的にユウのサポートができるから、いざ戦いになれば精一杯の手助けはするつもりだ。

 それに、今のユウは……。

 しっかり支えてあげないと、心が不安定になっていて。

 冷たく染まってしまいそうで。怖いの。


「レオン。あなたはこれからどうするの?」

「例のクリスタルドラゴンの山消失事件――ヴィッターヴァイツとやらのことは、君たちに任せようと思う。僕は冒険者たちと協力して、終末教の件を対処するつもりだ」


 ちょうど受付のお姉さんから緊急招集もかかっていることだしね、と彼は付け加える。


「でも……あなたたちだけで大丈夫? 私たちも、何かした方がいいんじゃ」

「いいや。ヴィッターヴァイツというのは、恐るべき脅威と認識しているよ。君たちはどうかそちらに集中して欲しい」

「そうだね……。わかった」


 この先、レジンバークは作戦本部のような役割を果たすことになるだろう。

 下手に戦力を散らせて、また前のようにレジンバークを強襲されるようなことがあれば。

 正確な情報が迅速に行き届かなくなる。現場は混乱して、大変なことになる。


「それに、きっと大丈夫だ。ランド君とシルヴィア君がいないのは心細いことだけど……Sランク冒険者が何名も集まってきてくれていると聞いた。ありのまま団からも有志が来てくれるそうだ。彼らと上手く協力して事に当たるとも」


『快鬼』アルバス・グレンダイン

『魔聖』ケーナ=ソーンティア=ルックルーナー

『拳双』ゴン・イトー

『剛棒』イシュミ・アレイター

『奇術師』ルドラ・アーサム


 など、名ありのSランク冒険者は多くが力を貸してくれるみたい。

 ルドラも今回は一冒険者として、素直に力を貸してくれると。

 でも。それでも。

 レオンは大丈夫と口では言っているけれど、かなり不安は感じているはず。

 高ランク冒険者やありのまま団の実力者を総動員しても、世界のすべてをカバーするには足りるかどうか。

 こちらの心配を察してか、レオンはぽんと私の頭に手を乗せて、励ますように言ってきた。


「ある戦力で頑張るしかないさ。お互い全力を尽くそう」

「うん……」


 聖剣を背負って、彼は颯爽と戦地へと発って行った。


「ちくしょー。あいつ、中身が女ってわかっても相変わらずキザな野郎だな」


 いつの間にか、レンクスが隣にいた。

 去る彼の後ろ姿を恨めしげに見つめていた。


「みんなの理想が入っちゃって、どうしてもああいう風になっちゃうんだって」

「そういうもんなのか」

「そういうものらしいよ」

「そっか……」

「…………」

「……やっぱり、心配か」

「うん」


 嫌な予感がするの。

 こっちの世界のことも、もちろん心配で。

 でもまだ、戦えるみんながいるからいいよ。きっと何とかなるって信じてる。

 だけど、ユウは……。

 困ったとき、頼れる仲間はいる。友達もたくさんいる。

 ただ、まともに戦える力のある人がいない。

 みんな、守らなくちゃいけなくて。

 ほとんどたった一人で、世界をカバーしなくちゃいけないんだ。

 それにまた、あの男と……。

 あいつと向き合ったときのユウが、いつものユウじゃないみたいで。

 怖くて。


 ユウ……。


 私は、待つしかなかった。無事を祈るしかなかった。

 本当に無力で。もどかしくて。不安で仕方がなかった。

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