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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
人工生命の星『エルンティア』

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46「再来の首都ディースナトゥラ」

 地上に送り届けられた俺は、あまりの展開に頭ではわかっていても心の方が中々追いつかず、しばしぼんやりと空を見上げた。

 当たり前だが、空はただ濁っているばかりで。その向こうの様子を窺い知ることはできない。

 ……心配してみたところで仕方がない。

 どの道、レンクスがどうにかできなかったら、俺の力ではウィルなんてどうしようもない。

 わかってるんだ。そんなことは。

 見上げるのはやめて、軽く首を振ってから前を向いた。

 しても仕方のない心配をするよりも、俺は俺で自分にできることをすべきだ。

 この世界のことは、俺に任せられたということなのだから。

 レンクスは最後に《許容性限界突破》をかけてくれた。その効果のほどを試すために、気剣を出してみる。

 そこそこ刀身に纏われる気の強さは上昇していたが、劇的というほどでもなかった。さすがに「あれ」を使えるほどには、強化をしてくれる余裕がなかったみたいだ。

 次は、女に変身してみる。

 いけるかな。


《ファルスピード》


 すぐにしゅんと消えてしまうことはなく、風の力が身に纏われた。足を動かしてみると、それに応じて加速効果が自動的に加わる。


 よし。使える。魔法が使える!


 元々の許容性が低いからか、いつもの30%くらいの感覚ではあるけれど。それでも十分過ぎるほど心強く思えた。魔法が使えることがこんなにありがたく感じたことはなかったかも。

 この世界で女でいるとき、ずっと心許なかったことに改めて気付いて、内心苦笑いする。

 地球にいたときは使えないのが当たり前だったのに。私もすっかり異世界に染まってしまったみたい。


 そのとき、別荘の玄関のドアが開いて、中からリルナが出てきた。

 彼女は顔に不思議の色を浮かべて、私に近寄ってきた。


「出かけたのではなかったのか? あの男はどうした」

「色々あってね。レンクスはしばらく戻って来れなくなった」


 事情を簡単に説明した。

 いきなり宇宙に飛ばされたとかの下りは、言ってもわかってもらえないだろうから、上手いこと言い換えて。


「なるほど。そんなことがな……」


 自分なりに事実を整理しているのだろうか。

 彼女は腕組みをしたまま、難しい顔をしている。


「あのね。ちょっと試してみたいことがあるの。悪いけど、バリアを張ってもらってもいい?」

「ん。ああ。構わないぞ」


 彼女の体表を、青い透明の膜が覆った。


《アールリース》


 そこに向かって、光弾の初等魔法を放つ。

 中位以上の魔法とは違ってさしたる殺傷力もないが、検証するだけだからこれで十分。

 予想通り、掌大の光弾はバリアを貫通して、彼女の胴体に命中した。

 身構えていたからか、彼女に動揺は見られない。

 ただ、かなり呆れているようだった。


「当たり前のように《ディートレス》を貫いてくれるな」

「やっぱり魔法は弾けないのね」


 さすがに何でもかんでも無敵バリアではないか。

 もし魔法まで弾くなら、一切考慮しないで好き勝手に使えたけど。

 魔法を使う際には、味方討ちしない程度には気を付ける必要があるね。


「魔法だと」

「えーとね、つまり――」


 説明しようとする私を、彼女は制した。


「いやいい。一々驚くのも疲れた」


 あれ。なんかやたら呆れられてるっぽい。

 まるでレンクスを前にした私のようなリアクションをされて、ちょっと心外だった。


 彼女の防御性能を確かめたところで、私は早速提案した。


「リルナ。今から一緒に中央工場まで殴り込みに行かない?」

「望むところだが。できるのか?」

「今ならね」


 魔法が使える今なら。

《許容性限界突破》の効力が切れるまでに、できることはしておきたい。


 私は、懐から通信機を取り出してテオにかけた。すぐに通信は繋がった。


「もしもし。こちらユウ」

『ユウか。こちらテオだ。どうした』

「今から私とリルナで、ディースナトゥラに向かうことにしたの」


 と言うと、さすがにひどく驚いたみたいだった。

 途端に彼の声が大きくなる。


『な!? もう少し待った方がいいんじゃないのか。ぼくの方でも精一杯準備を進めているところだ』

「大丈夫。正面から戦えばどうしたって犠牲が増えるけど、そうじゃない方法ができたから。テオは今すぐ戦えるメンバーを集めて、いつでも動けるように別荘に待機させておいて」


 数瞬の重苦しい沈黙の後に、なぜか諦めたような調子で彼から返事がきた。


『ああ……。わかった。すぐにそうしよう』

「ありがとう。それじゃね」

『くれぐれも無茶はするなよ。健闘を祈る』


 通信を切って懐にしまい、リルナに右手を差し出した。


「行くよ。手を繋いで」


 彼女が手を握る感触をしっかりと受けつつ、私は行き先を念じる。


 最初にこの世界に来て、他ならぬこのリルナから逃げていたとき。

 色々魔法を試してみたことがあった。

 ほとんど失敗したけれど、あのときちゃんとマーキングがなされていれば――。

 それ自体にほとんど魔力は必要ないから、きっとできているはず。


 お願い。飛んで。


《転移魔法》


 転移系特有の、一瞬天地を失ったような浮遊感がしたと思えば。

 私たちは、人通りのない裏路地に立っていた。

 周りは、煌びやかな白銀の建物に囲まれている。そして彼方には、天高く突き上げる双塔が映った。

 ディースナトゥラ第三街区六番地。どうやら上手くいったみたい。

 リルナが、やや驚いた面持ちで辺りを見回している。

 やがて、小さく溜め息を漏らした。


「トラニティのトライヴ機能を彷彿とさせるな」

「まさかあの苦し紛れの行動が、今さら役に立つとは思わなかったよ」


 私も労せずして、こんなところまで簡単に飛んでしまった。

 人のこと言えなかったね。ごめん。レンクス。


「あの行動?」

「ううん。こっちの話」


 軽く微笑んでから、すぐに気を引き締めて続けた。


「行けるところまで二人で突っ込む。無理だと感じたら、一旦転移で退却して立て直そう」

「了解した。だが行けるところまでというのは、少々後ろ向きだな」


 リルナは、不敵な笑みを浮かべた。どこか愉しそうに。


「無論、最後まで行くつもりだ」

「ふふ。私もそのつもりだったよ」


 そのために、あえて一番頼りになるリルナだけを連れて来たんだもの。

 攻防、特に防御に優れる彼女なら、身の心配をする必要は少ない。むしろ、私の方が頼りないくらいかもね。

 もちろん他のみんなが役に立たないと言ってるわけじゃない。でも、それほど数が必要のない場面で、わざわざ危険に晒す必要はないと思う。

 バリアや気でガードできる私たちと違って、ラスラたちはれっきとした生身だからね。もし何かがあって、また誰かが死んでいくのを見るのは嫌だった。

 それでも、より大規模な戦いになることがあれば。

 ラスラたちの力がどうしても必要になるときも、きっと来るはず。

 来ないで済むのが一番いいけど。


 ――とにかく今は、目の前のことだ。


 人目に付かないように注意しながら、中央区まで移動する。

 警報が鳴っていないというだけで、かなり難易度は下がっていた。

 リルナによると、もし鳴ったとしたら、その瞬間に街中の人間が敵に回ることになるというのだから、ぞっとしない。

 途中、ニュースに出ていたプレリオンとかいうのが、あちこちを徘徊しているのが目に付いた。

 まるで天使を思わせるようなデザインで、どれも画一的な女性の姿をしている。

 真っ白な髪と、真っ白な肌。そして白い瞳。何から何まで色がすっかり抜け落ちたような白。

 普通のナトゥラと違うのは、何というか、どこまでも立ち振舞いが機械的で、心というものが一切感じられなかった。

 プラトーのようなビームライフルを備え、紫色の《インクリア》っぽいものを常時抜き身にしている。

 はっきり言えば、物騒極まりない連中だった。

 そんな連中が我が物顔で通りを闊歩していても、みんな気にする素振りも見せないのだから、この街がいかに異常に満ちているかが窺える。 

 リルナの《パストライヴ》も使って、何とか彼女たちにも見つからないようにやり過ごしていく。

 そしてついに、中央工場を守る外壁を眼前に捉えた。


「さて。ここからが本番だけど」

「わたしの出番だな。バスタートライヴモードに移行」


 彼女の口から、機械的な音声が発される。

 見た目は何も変わったようには見えないけれど、これで彼女の戦闘レベルが二段階上昇しているはずだ。


「掴まれ」


 彼女の手をしっかりと取る。

 直後、《パストライヴ》で外壁の上に浮上していた。

 その瞬間、四方から一斉に赤のレーザーが発射される。

 視界を赤一色に塗りつぶすほどの、実に凄まじい攻撃密度だった。


 これか! ロレンツが言っていた、セキュリティっていうのは。


 私一人でいれば、到底一たまりもなかっただろう。

 だがリルナの前では、この程度の攻撃など、障害になりようもなかった。

 連続でのショートワープ。

 私とリルナは、危なげなく工場の敷地内に着地する。

 目標を失ったレーザーは、当たるはずだった場所で一点に交わった後、どこか間抜けな直線軌道を描いて彼方に消えていった。

 次のレーザー攻撃が来る前に、私はすかさず魔法を放つ。


 風の魔弾。


《ファルバレット》


 アスティから何度となく銃撃の訓練を受けていたおかげで、この魔法の精度もかなり上がっているようだった。

 発射された光線の軌道から逆算して、レーザー装置をことごとく撃ち抜いていく。

 撃ち抜かれた装置は、ぷすぷすと噴煙を上げて。もう二度とその機能を果たせなくなった。


 さて。目の前には、ドーム型の馬鹿に巨大な建造物が見えている。

 長年ナトゥラを生み続けてきた禁忌の地。

 もうすぐそこではあったが、そう簡単に通してもらえるわけもなく。

 数多のプレリオンが、冷たい殺意を剥き出しにして、紫光の刃を振り上げている。

 どこからやって来るのか、ぞろぞろと湧いて既に私たちを包囲しつつあった。

 本来の威力を持たない魔法では、こいつらは倒し切れないだろう。

 そう判断して、すぐに男に変身する。

 俺は気剣を、リルナは《インクリア》を抜いて、背中合わせに構えた。


「お前に背中を預ける日が来るとはな」

「頼りにしてるよ。リルナ」

「ふっ。足手まといにはなるなよ」

「そっちこそな」


《マインドバースト》


 追加で自己流の強化をかけて、彼女へ呼びかける。


「敵を倒すのは最小限にして、とにかく中へ進むぞ」

「ああ。わたしたちを敵に回したこと、後悔させてやろう」


 俺の予感が正しければ。きっとここにもあるはずだ。

 例のコンピュータシステムの一部が。そして――。

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