97、
朝起きて、幸せなんて極一時だという事を知らされる。
あぁ、寒い。
見慣れた自分の部屋の天井がやけに低く感じられた。
今日はセラ君とデートの約束をした日だった。
今度は私がちゃんと言わないといけないんだ。
美晴の方が好きだって。
そう考えた時点で急激に体と気持ちが重くなった。
セラ君にどう伝えたらいいんだろう?
嫌いではないし、むしろ好きだ。
だけど、なんだか頼れない。
守ってあげたくなるような感じだからだろうか。
うぅん。
起きようかな。
私は起き上がってベットに腰掛けた。
冷えきった部屋の暖房をつけることはせず、とにかく部屋着に着替える。
時計を見ると午前9時だった。
まだ時間がある。
ゆっくり、セラ君に言わなければならない言葉を選ぼう。
それよりまずは、朝ごはんでも食べよう。
お母さんはどこか行ったらしく、机の上に卵と何も乗ってない食器たちが虚しく置かれていた。
食器の横に置き手紙が置いてあり、
『ご飯だけ炊いてあるから、後は自分で作って』
だそうだ。
手抜きにも程があるだろ。
しかもこの卵、焼けばいいのか生で食べればいいかわからないじゃないか。
まぁ焼きますけど。
冷蔵庫の中に、ハムとプチトマト、キャベツにヨーグルトがあった。
キッチンの端にはインスタント味噌汁がおり、まぁ、これで和洋折衷の食事が作れると思い、まずやかんに入れた水を火にかける。
フライパンに油を引いて、これも火にかけ、あったまった所でハムを2枚投下する。
いい匂いが漂い始めたら卵を、片手で割ってハムの上に落とす。
片手でね。
このくらいできるわよ!
っと、そんなこんなやっていたら大智が降りてきた。
どうやら匂いに釣られたらしく椅子に座るなり、
「めし!」
「はいはい」
確か卵もう一つあったよなぁ、と冷蔵庫を開けると謎の黒い卵を発見し、無視して白い卵を1つ取った。
焼けた半熟卵をお皿に乗せ、塩コショウを振る。
それにキャベツとプチトマトを添えておく。
それと、沸かしておいたお湯でインスタント味噌汁を作り、ご飯をよそう。
あとは、ヨーグルトを別皿に適当に分けておけば、簡易朝食の出来上がり!!
さきに大智に上げて、同じものを作って私も食べる。
そんなこんなしてたら11時も近くなった。
そろそろ、出かける準備をしよう。
「ねぇ、美晴とデート?」
「は!? 違うわよ」
「え!? 二股!?」
「違う! 今日フリにいくの!!」
「え! ねぇちゃんにフラれるの! 残念すぎる!」
あぁ、ったくうざったい。
「いいでしょ!」
「ま、美晴の方がカッコイイからねぇ。なんだっけ? 最近オシャレしてるのそのせいでしょ?」
「悪い?」
「美晴と1回やった?」
私は近くにあったティッシュボックスを思いっきり投げつける。
すると角が上手くおデコに当たったようで、痛いと言いながら摩っていた。
「怒るよ!」
「いや、既に暴力奮ってるし」
「うるさい! バカなこと言わないの!」
「気になるじゃんー」
「ガキは知らんでいい」
「大学受かったしー」
「だからって教えないから!」
このままではなにも変わらない気がして、逃げるように自分の部屋に戻っていった。
はぁ。
着替えて行こう。
言わなきゃいけないんだから。