96、
その風に私は髪とスカートをおさえた。
街を歩いていた女子高生も悲鳴を上げる。
さらに軽そうな看板は容易に倒れ、そうでないものも静は保てなかった。
直ぐに収まった。
「春一番かな?」
美晴がバカなことをいい始めた。
まだコートさえも外せない気候なのに、それはない。
「なにバカなこと言ってるの? まだ早すぎるでしょ」
「そうか? そんなことないと思うぞ」
笑いながら私の手を取る。
「いや、違うと思う」
手を握り返して空を見上げた。
ーーーーそれは不思議な光景だった。
晴れている。
これは間違いないこと。
なら、何故『雪』が降っているのだろうか。
頬に舞い降りたそれは間違いなく冷たかった。
「なにこれ?」
「……雪だな」
彼は冷静にそう答えた。
私は彼の顔を見た。
とても驚いていた。
それもそうだ。
こんな現象、ありえない。
まるでファンタジーの世界にでも入ったかの様な幻想的な状態。
彼はニヤリと笑い空を見上げた。
「なぁ、知ってるか?」
私もつられるように空を見上げる。
「晴れている時に降る雪って、風花って言うんだぜ」
風花……。
初めてかもしれない。
空に舞う雪は、ふわふわと揺れながら、太陽の光で輝き、それこそ幻想的な世界の中にいる。
ーーーー運命。
そう、運命。
最後まで知らされることのなかった運命なのかも知れない。
今の私はただただ、輝く雪の落ちる世界に立ち、大好きな人と立っている。
幸せだ。
とても、幸せだ。
そんな幸せ、ずっと続けばいい。
これから、セラ君は戻ってきて、皆有名になって、カフェも繁盛して……。
なんかゴタゴタがあっても、最終的には、美晴と結婚して、子どももできて……。
そんなハッピーエンドを頭の中に描いていた。
ーーーーこんなこと、叶わないなんて知らずにーーーー