94、
とにかく、軽くイライラしている。
結局テラコさんと土門さんは仕事があるからと適当な理由をつけて車で帰り、私と美晴は一緒に電車で帰る羽目になった。
最悪。
ホントに、なんでこんなやつに。
黙ったまま2人で吊革に掴まり立っていた。
美晴はこちらをちらちらと見るが、言葉を発することはしない。
なにを考えてるのか。
あの時の謝罪の言葉?
今日の服でも誉めてくれるのかしら?
今日はメイクしてないけど、すっぴんもいいかしら?
ああ!
もう、いろいろとイライラする。
携帯はこういうときに限って沈黙を保っている。
携帯をカバンにしまって美晴に話をふる。
「かなり心配したんだけど」
外の風景は心地よいくらい晴れ渡り、右から左へ流れていく。
時折木が影を作り車内を木漏れ日で染めたりしていた。
「……ありがとう」
素直にそう答えた。
私が欲しかった言葉は、それだけだ。
着飾った言葉じゃない。
ただ、それだけ。
彼も少し安心した様な顔になり、同じように車窓を眺め始めた。
住宅街が並び代わり映えしない映像。
それをただ見ているだけ。
空を見上げても澄んだ空が果てしなく続くだけ。
何も変わらない。
ホントに、何も変わらない。
「ねぇ、私のどこが嫌い?」
小さく呟くと驚いた様にこっちを向いた。
若干驚いた顔をしたが、直ぐに口を開いた。
「……取りあえず、眼鏡」
「じゃぁ、変える。コンタクトにすればいいんでしょ? 付き合って」
被せるようにそう言った。
「もう、許してあげるから、その嫌いなの直させてよ。わからないからさ」
小さく頷く彼は、驚いた様な顔をした。
それを横目で見たら、笑ってしまった。
「変な顔」
それを聞いてか、美晴は顔を元に戻そうと努力したが変なままだった。
おバカさんなんだから、ホントに。
「ここで降りていい? 眼科はここのがいいの」
減速する電車。
それから止まり、開いた扉。
私は変な顔の男の手を取って電車を降りた。
骨張っていてゴツゴツしてる大きな手。
それを強くにぎりしめ、引っ張る。
晴れ。
晴れ渡っている。
空が高い訳じゃないし、見える景色も変わらない。
ただ、晴れている。
太陽の光は暖かく、飛ぶ鳥も気持ちよさそうに舞っている。
「なぁ、なんで?」
真っ直ぐ眼科に向かう途中、彼は疑問を放つ。
「え? だって、危なっかしいじゃない。猫を助けようとしたら車に引かれそうになるなんてバカみたい。だから、私が見守るの。死んで貰っちゃ困るの! 大好きだから!」
晴れ渡る空に響いた。
セラ君には悪いけど、私、美晴が好きみたい。