93、
目覚めたら、携帯が青く点滅していた。
メールが来ているサインだ。
起き上がって1度伸び、取りあえず顔を洗ってこようと立ち上がった。
だいぶ寝たのに果てしなく、眠い。
適当に顔を洗い、部屋に戻って携帯を確認した。
は!
なにこれ!?
着信が30を越えている。
なにごと?
いずれもテラコさんからで、電話は1時から2時の間に電話がかかってきていた。
メールも何通か来ていて、ほとんどが着信の奴だったが、1通だけ、テラコさんから送られてきていた。
『美晴が事故起こした』
すぐさま、書かれていた病院に向かいテラコさんに電話をしてむかえにきてもって、美晴の病室に早足で向かった。
「ごめんなさい、今まで気づかなくて」
「大丈夫よ」
「アイツ大丈夫ですか!?」
「あー。あはは、会えばわかるよ」
なんだ、このテラコさんのよくわからない反応は。
どうやら病室に着いたようでテラコさんは扉をスライドさせて開けると、どうやら多人数の部屋だった。
6つのベットの1番窓側のドアを挟んで左のベットの横に土門さんがいて、笑いながら話している先には頭に包帯を巻いた美晴だった。
笑っていた。
笑ってる?
私は半ば走ってちかづき、真ん中のベットに腰を打ち付けても謝りもせず、近づいてその顔をしっかり見る。
間違いなく、美晴だ。
「なんだよ……。ジロジロ見んなキモイ」
「私、心配して……! もう! 知らない!!!」
そのまま部屋を出ていき、帰ろうとすると、テラコさんが部屋の外にいて止められてしまった。
「時間あるかしら? ちょっと話したいしね」
そのまま、病院のロビーのソファーに座った。
この場には時間帯のせいか、多くの人が来ている。
それにも関わらず、静かで受付の看護師の人の声が響くだけだった。
「ゴメンネ。なんか勘違いさせちゃったみたいで」
静かな中で放たれた言葉。
勘違い……。
確かに、重症なのかと思ったけれども。
「まぁ、私も電話もらったときはとうとう死ぬのかなって思ったわ」
「あの、どんな感じだったんですか?」
「電話は病院からで、車と追突したって言ってたのよ」
「え!」
「話は最後まで聞いてねー」
少し大きな声を出してしまったため、近くにいた男の人が睨んできたが、テラコさんが直ぐに話を進めたために視線をテラコさんに戻した。
「私もホントに驚いて飛んで来たわけ。そしたらピンピンしてるのよアイツ。どうやら、車に追突した訳じゃなくて、引かれそうになった猫を助けたらしいの。勢い余って電柱に頭ぶつけてね」
なんだそれ。
私、バカみたいじゃない。
「他の人には1発で連絡取れたんだけど、時雨ちゃんだけ取れなくてね。行きの車の中でずっと電話してたのよ。それで、出ないからってメール送ったのね。で、美晴と出会ったら、ピンピンしてるから、そのことも忘れちゃっててね。ゴメンネ」
私は深く溜め息を吐いた。
「そうでしたか」
意外と冷たい言葉が出てきた。
「あの、退院は?」
「いつでもって感じね。なんなら一緒に帰れば?」
「そうします。あのバカ、また猫助けて死んだら困りますから」
そう、笑いながら立ち上がった。
テラコさんも立ち上がり、2人で再び病室に向かった。
「そういえば時雨ちゃんさ、美晴とはもうキスしたの?」
「は!」
思わず大きな声を出してしまった。
今度は看護師の人にまで睨まれてしまい、今回は腰を曲げて謝った。
「変なこと言わないで下さい」
「ごめんごめん。いや、したものだと。っで、したの?」
「……してませんっ!!」
「へー。じゃぁ、今も好きなのかしら?」
「……大っ嫌いですよ」
「へぇ。じゃぁ、困るってなに?」
今さら、自分の発言の挙げ足を取りに来ていたことを知った。
「いやー……それはですねー……」
「いやぁ、言いたくないなら言わなくていいのよ? 私はまだ好きなのかなぁって思っておくから」
「それは違います!」
それだけ断言して病室の扉を開けた。
その先には病室の人と共に楽しそうに筋肉を見せあっている美晴と土門さんがいた。
私は黙ってドアを閉めた。