92、
夜になってもおバカは部屋でベンベンと気持ちよさそうに弾いている。
まったく騒がしいことこの上ない。
夕飯の後片付けをしながらそう思うと、テレビでセラと言う言葉が出てきた。
間違いなく私の知っているセラ君で、今日は有名音楽番組に出ていた。
これは、私にメールできるほど暇がないようだ。
まぁ、わかってたけどね。
次歌う曲に耳を傾け、机を拭いた。
「あら、鼻歌なんて珍しい。いいことでもあった?」
お皿洗いをしているお母さんがそう聞いてきた。
「1日中家にいたのに」
余計な言葉をつけたさないでいいです。
「別になにもないよ」
と言いつつも止まらない鼻歌。
耳に残るんだよセラ君の曲。
「あんた、さっきの歌手より上手いんじゃない?」
「なにそれ、馬鹿にしてる」
「いやいや、そう聞こえるわよ」
うすら笑いの顔で言われても説得力ないのですよ。
「いいわねぇ、若いって。ララララー」
お母さんも歌い始め、この家には4つの音楽が流れていた。
片付け終わるとそのままお風呂に直行した。
新しく開ける本を片手にお風呂に向かおうとすると、セラ君からメールが入った。
『ねぇ! 次の水曜日空いてる? デートしたいんだけど』
あまりに急なので、私は1回携帯を閉じてしまった。
お風呂上がってからでもいいよね。
そんなこんな、お風呂から上がるとメール貰ってから大体1時間経っていた。
メールを返さねば。
水曜日だっけ?
まぁ、どうせ暇だけど。
どうしようか。
断るのもどうかと思うし、と思いながら既に大丈夫だよとメールを送った。
メールの返信は早く、駅に13時と返ってきた。
了解とだけ送るとそれ以降返信は無かった。
私は寝床に入る前に日記を付けることにした。
いや、今日から始めようと思ったのだが。
今までは平凡過ぎて書くことがないから書かなかったけど、内容がある。
ふと、思いついたのだ。
今日は、美晴が押し掛けてきた。
ギターがうるさい。
大智が大学受かってるらしい。
セラ君とデートの約束した。
なんか、とてつもなく内容が薄い。
この日記帳、1ページに3日書けるようになってて、50ページある。
約1年分。
なんで1年きっかりにしなかったのか不明だが、手頃なのがこれだったのだ。
日記帳を閉じて机にしまい、ベットに横たわる。
すると急に携帯が鳴り出した。
それは美晴からだった。
出ようか悩む。
そもそもよく私に電話ができるものだ。
あれの後なのに……。
「なに?」
『あ! もしもし! 時雨??』
あ、酔ってる。
『なぁなぁ、今から会えない』
「無理。それだけ?」
『え! なんでよ!』
「もう寝るのよ」
『はやくね? それ早いよ! ちょっとだけでいいから!』
「やだ、じゃぁね」
強制的に通話を切った。
ホント最低っ!!
携帯の電源を切って寝た。
まぁ、はやいって言われても文句言えないわね。
まだ、8時だし。
私は瞼を閉じた。
無性に眠いのはあれが近いからとだけ悟り、眠った。
まさか、あんなことになったなんて思いもせずに。