9、
私はテラコさんに連れられて、デパートのエスカレーター付近にあるベンチに座る。
それと同時にテラコさんはペットボトルのお茶をくれた。
「はい。お酒じゃないけど」
テラコさんは悠長に冗談をかましながら私の隣に座った。
今更気づいたが、テラコさん、巨乳……。
「あ、ありがとうございます」
「いいのいいの、美晴の彼女だしね」
まだそんなことになっていたのか。
「違いますから」
「いいのいいの、恥ずかしがらないで」
もうだめだこの人。
「この前はごめんなさいね。酔っててなんか変な絡みしちゃったみたいで」
酔ってても酔ってなくてもこの人は変わらない気がした。
「そういえば自己紹介してなかったわね」
テラコさんはそう話を進めながら自分は缶の炭酸飲料を一口飲む。
「私は、寺西聖子。みんなからはテラコって呼ばれてるわ。バンドではキーボード。もうかれこれ五年はやってるわね」
寺西聖子。頭とお尻を取ってテラコ。
誰がこんなあだ名をつけたのだろうか。
「っで、時雨ちゃんも自己紹介」
「あ、はい」
急にフラれて多少困ったが直ぐに続けた。
「黄金沢時雨です。大学二年、学科は生物化学科です」
なんか余計なことまで言った気がするが、まぁいいやと思って息を吐いた。
「二年なんだ。じゃぁ美晴の1個下ね」
はい?
「え、柘植くんって三年なんですか??」
「そうよ? 知らなかったの?」
うわぁ、同い年か下かと思ってた。
「あらぁ、まぁ、そうね。三年生よ」
なんとなく残念な気持ちになりながらも、ひとつの疑問が生まれた。
「あ、あの……テラコさんと柘植くんってどうやって知り合ったんですか?」
テラコさんはぱっと見でも私と一緒の年齢とは思えないし、しかも働いている。
「あぁ、1回ね、バンドフェスティバルでライブしたときにね、美晴に誘われたのよ。俺とバンド組まないか? ってね」
懐かしそうにそう答えた。
意外と単純だったことに流石に驚きを隠せなかった。
「さぁて、そろそろ戻ってくるんじゃないかしら? 私はもう仕事に戻らないとだからね」
そう言って立ち上がりニッコリと笑った顔を見せられた。
テラコさんは、髪にむらさきいろの大きなカチューシャをしていて、メイクははっきりと、服は奇抜だが、すらっとした体型にDだと思われる胸。
なんとなく、かっこよく感じた。
「じゃぁね、時雨ちゃん。また会える日に」
見とれて遅れをとった私は立ち上がり一礼する。
彼女はスタスタと、結構高いヒールの靴で消えていった。