83、
駅前。
休日でもないのに歩き回る人達は多く、険しい顔をしたスーツの人や1つのマフラーを巻いているカップル。
さらにはティッシュを配っているお兄さんに、遠くから聴こえる呼び込みの声。
そんな喧騒と同じくらいの心臓の違う意味での高鳴りに溜め息を吐かざるを得なかった。
新しく買った女の子らしい腕時計を見ると予定の時間を3分過ぎていた。
持っている手提げカバンを後ろに回し、壁に背をつけた。
少し高目のヒールを履き、とびっきりの(少し失敗した)お化粧をして、髪型も少し変えてみた。
切ろうか悩んだけど、さすがにそんな勇気は出なかった。
前にテラコさんに仕立てて貰った、セラ君に買って貰った服を着ている。
とてもとても、ミニスカで恥ずかしいのだけど、さらにニーハイでとてもとても恥ずかしいのだけど、可愛ければいいかなと思って着ているが、失敗した。
ニーハイとミニスカの間が寒い。
鳥肌が立ってるのではなかろうか。
地面のタイルは吐き捨てられたガムがこびりついて黒くなっていた。
それを気にせず歩いていく人達も足早である。
口周りが寒くてマフラーを摘んで上げた。
「ごめん!」
私は驚いて背中を離し、彼の顔を確認する。
キャップを深く被り、縁なしフレームのインテリア眼鏡をしていた。
「ホントごめん! 途中でバレちゃってさ」
少し疲れた顔をしていた。
息も切れている気がする。
走って逃げたのだろう。
「はやく行こうか。またバレたら大変だ」
そう言われて手を握られ、引っ張られるようにして近場のファミレスに向かう。
ヒールのせいか私の方が背が高くなってしまっていた。
セラ君の歩く早さが早くて小走りをしていたが、そろそろ疲れてきていた。
そうしてファミレスに着き、中に入る。
そうして通された場所はお店のど真ん中で見通しが良すぎていた。
「あは……まぁいっか」
そうつぶやくとキャップを取った。
茶髪だった髪も少し色を薄め、眼鏡のせいかまるで別人だった。
「とりあえず、ご飯食べようか。話はそれからでもいいよね?」
「うん」
セラ君が座るのを見て私も座った。
目の前に広げられて出されるメニューには美味しそうな、アツアツハンバーグや、カルボナーラが豪華に並べられていた。
まぁ、私の頼むものははじめから決まっているのですが。
「決まった?」
「うん」
すると、彼は近場にあった呼び出しボタンを押した。
ピンポンという音が鳴るとミニスカの店員さんが着て可愛い声で、お決まりでしょうかと定型文を発した。
「僕はチーズハンバーグスペシャル。時雨ちゃんは?」
「あ、カルボナーラで」
メニューを指さしてそう言った。
「あと、ドリンクバー2つで」
「はい、かしこまりました。チーズハンバーグスペシャルおひとつ、カルボナーラおひとつ、ドリンクバーがおふたつでよろしいですね」
「はい」
ありがとうございますと会釈して戻って行った。