8、
時間は17時を少し過ぎたくらいだった。
私と柘植くんは横一列に並んで、歩道を歩いていた。
空は珍しく晴れていた。
星が綺麗に光り、月は満月だった。
冷たい風は頬を撫で、髪を揺らしてから体温を奪う。
「寒っ!」
私は思わず口に出してしまった。
柘植くんがゆっくりこっちを向いたのを私は確認してしまった。
あぁ、なんか言われそうだ。
「大丈夫か?」
そう言われて答えに困った。
こういう時ってどう言えばいいのだろう。
「ったく、ほら」
困っていたら、肩にマフラーを掛けられた。
意外と大きい黒のマフラーは私の体まですっかり覆えるものだった。
そして、少しだけ……、温かかった。
「それで大丈夫だろ」
「う、うん」
彼がマフラーを外しているのは、外では珍しかった。
だからか、星が光っているこの夜空がやけに似合う気がした。
「なぁ、お前薄着で寒くねぇの?」
確かに、冬を乗り切るには無謀な服装であった。
「今から行くか。よし、そうしよう」
そうひとりで決定して私の手を掴んだ。
「服買いに行くぞ。なんでもいいか?」
いやいやいや。
そうじゃなくて、なんで手を掴んでいらっしゃるんでしょうか。
あの、冷たいし、
「よっしゃ、いくぞ」
どこにいくのよ!
ってか、私お金ないんだから!
連れて来られたのはデパートの中のオシャレな服が立ち並んでいるブースであった。
彼は私に服を合わせながら何やら独り言を言っていた。
「あら、美晴じゃない。どうしたの? 彼女の服選びかしら?」
「あぁ、そうなんだ。ちょっと連れ回してたら暗くなって、こんな薄着で寒いらしいから買いに来たんだが」
「なら、こっちの方がいいわよ。このすらっとした体型で白い肌ならね」
急に来た店員は、誰かと思った瞬間に思い出した。
確か、テラコさんだったか。
テラコさんが私に合わせた服は、どうやらパーカーだった。
色は薄い青で、フードには流行りなのかクマの耳がついていた。
フードを締める紐の先には白いポンポンがついていて、小動物感を表に出していた。
「子供っぽくねぇーか?」
「なに言ってんのよ。今時幼い感じに作るのが主流なのよ」
確かに、最近は幼い方の可愛い感じの服を着ている人が多い気がする。
「このパーカーで、こっちと、後このスカートで、タイツの、このモフモフ! はい、試着室あっちねぇ。いってらっしゃーい」
半ば強制的に試着室に投げ込まれる。
はぁ、柘植くんと付き合ってると自分の意思で動けない気がしてきた。
仕方なく私と一緒に投げ込まれた服たちを着ていく。
全体的に青と白を貴重としている服たちを着終わる。
それを鏡で見るとびっくりしてしまった。
「終わったかしら?」
聞く気があるのかと思うほどカーテンが素早く開けられそう聞かれた。
「あら、大成功ね」
そう言われて私は急に恥ずかしくなった。
なんせ、オシャレなんかそこまでしていない。
化粧とか、自分に似合う服とかは着るが、こういう流行りとかを試すのはしたことがなかった。
「まぁ、そんなこと言っても美晴タバコ吸いに行っちゃったけどね」
バカじゃないの!?
普通ひとりにする?
「ねぇねぇ、聞きたいことがあるの。これから私休憩だから、ちょっと待ってて」
「あのぉ、服は?」
「あぁ、もうお代は頂いたから大丈夫よ。そのまま着てて」
テラコさんはどこかへ消えていった。
本当にひとりになってしまった。
私は試着室から出て振り返った。
いつの間にか買われていた服を着ている。
柘植くんが買ったのだろうけど、どうしてこんなことするんだろう。
素朴な疑問だった。
少しだぶだぶの服。
なんだか、温かかった。