76、
テスト期間。
あの事以来、誰とも会っていない。
私が家で勉強のために引き篭っているのもあるが、セラ君からメールも来ないし、美晴に至ってはこっちからメールしても返ってこない。
そんなことを胸に持ちながら、マークシートの3を黒く塗りつぶしていた。
3回連続で3なんだけど、あってるかな?
そんなこと考えた私を鼻で笑い、最後まで3をマークしていく。
そういえばこの先生、3が好きだったんだ。
3が好き過ぎて、回答のほとんどを3で埋めるそんな人だ。
退室できるため、退室時間丁度でカバンを持って出ていった。
今日でテストは終わりだ。
どれも簡単だから受かっているだろう。
私は階段を降りて外に出ようとホールに出た瞬間、柱に寄りかかった皐月さんを見つけた。
コツんと私の履いていたヒールが鳴ると視線が私に来て、高かった目尻がいつになく下がっていた。
私の姿を見ると直ぐに顔を歪ませ、瞳が蛍光灯の光を跳ね返していた。
私は皐月に近づき、どうしたのですか、と聞く。
「ごめんな。あそこ行こうで」
話したいことがある。
そんな感じだ。
私は静かに頷き、胸のざわめきを抱いたまま駅へと向かった。
いつもはうるさいくらいの皐月さんは電車の中で俯き、時折鼻を啜る。
それを少し見た後、私も窓から見える風景に目を向けた。
何もない。
山も真っ白く染まり、木々は寒そうな姿だ。
針葉樹さえも、北風を受けて身を縮めていた。
まるで、私みたいだ。
寒くて、寄せた体が安心したから、私は……。
なにを思ったんだろう?
私はなんであんなやつのことを?
今は嫌いだ。
だからわからない。
あの時の浮いたような感覚も思考もなにもかも、今じゃわからない。
だから、気になる。
美晴の本心が。
『嫌い』の意味が。
電車は終点に着き、私が降りるために立ち上がると、寝ていたのか皐月さんは飛び上がって立ち上がった。
バラバラと降りる人達も、この時間だと行く道がバラバラだ。
私たちはその中でも誰も進まない道を行く。
寂れた裏路地を抜けてネオン街に入ると1戸だけ薄暗い場所がある。
そこに私たちは入るとカランカランと相変わらずの軽い音色と裏腹に、店内は重い空気が漂っていた。
店内に入るとコーヒーの芳ばしい香りが鼻をつき、甘い香りが眠りを誘う。
難しい顔の土門さん、テラコさん、晋三さん、3人がその場所にいて、私たちに目をやることなく話していた。
「セラなしでもやるしかないのか? セラがいなけりゃ……」
「でも、もうムリじゃないかしら? 今までもよくもってくれたと思うわ」
「あぁ。もうレコード会社に所属したんだろ?」
「でもオレは!」
私は、この場所に来て良かったのだろうか……。
私のせいで……。
「あたし、セラ君がいない、サチレ、嫌や! 絶対に嫌や!!」
ずっと静かだった彼女が急に声を上げた。
「最初っから見てきたから尚更嫌や! みんなで頑張ってきたやん! なんで! なんでこんなかたちでやめるのさ! 夢やったんやろ!? みんなの夢! ……美月さんのための夢やったんやないのか!!? セラが……、セラが……!」
嗚咽しながら叫び、地面に四つん這いになるように倒れ、泣き叫んでしまった。