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しぐれぐむ  作者: kazuha
揺れ動く感情
75/200

75、




 セラ君は土門さんに強く言い放った。


 土門さんは、驚いた表情で片付けの手を止めていた。


 私も入口で立ち止まり、中には入るか躊躇した。



 そんな私に気づいたのは土門さんだった。



「寒いから中に入れ。話はそれからだ」



 私は頷いてまた中には入り、いつもの場所に座る。




 セラ君は何故か私に目も向けず、1点、土門さんを見続けていた。



「っで、セラ。ある程度いきさつは皐月から聞いてるが、お前の心の内を聞かせて欲しい」



 土門さんはバンダナを取った。


 思ったより長い髪は目にかかってしまう程で、それを掻きあげながら整えている。


「あんな野郎と一緒に音楽できない」


 土門さんはそう言うセラ君を睨みつる。


「そんなの理由じゃないだろ。本心を聞かせろ」


 そう言われて始めてセラ君は土門さんから目を反らした。


「だって、時雨ちゃんが、可哀想じゃん。本当は……き、らいなんだよ。なのに、なんで告白なんかして、意味がわからないよ!」


 言葉を濁そうとしたのだろうけど、感情のまま言ってしまったという顔だ。


 私なら大丈夫。


「あぁ、そうだな。だけどそれは個人的な感情だろ? バンドを抜ける理由じゃないだろ」


「そんなやつの曲歌いたくない! それに、そろそろあいつの曲、歌っても楽しくなくなってきた」


 もはやついて行くので必死だったが、逆に理解できないほうがいい気がしてきた。


「だから、交替交替でやるってなっただろ」


「だから、あんな野郎の歌はもうやなんだ! 土門だってわかるだろ!? だったら僕が全部創る! でも、晋三も、テラコさんもあいつとやるって言うだろ!? なら僕は、……僕がいなくなるほうが全て解決じゃんか!!」



 言い終わってもなお、視線を緩めなかった。


 土門さんも一歩も引かないような姿勢を見せていた。



「お前がいなくなったらファンは悲しむぞ。お前はそれでいいのか?」


「最初っから、アイツのファンしかいないじゃないか!! 僕たちにファンがついたことなんてあったか!? 僕は1回も、僕のファンって人に会ったことない! 全部、アイツのファンか、バンドのファンじゃんか!!」



 知らなかった。


 言われてみれば、今では突出した能力の持ち主はいないし、いい意味で1つだ。


 ただ、悪い意味では個性のないメンバーの集まりとも言える。



 私だって、セラ君のファンと胸を張って言えないし、バンドそのものが好きだ、と言うだけだ。



「それでも、オレらは!」


「土門なら!! 土門なら許してくれると思ってたのに…………。土門のバカ」



 そう呟いて走って出て行ってしまった。


 私は追いかけることも考えつかず、唖然として見ているだけだった。







 土門さんは深く溜め息を吐く。



 そして、頭を抱えてしまった。



「すまん。閉店だ。帰ってくれ」

「は、はい」




 私は言われるがまま出ていく。


 カランカランと軽い音がしてから、少し歩き立ち止まる。




ーーーー私。大変なことをしてしまったのではないだろうか。

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