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「退院できない彼女のところに毎日のように見舞いに行った。その日にあったことを話した。彼女は楽しそうに聞いてくれた。それで、オレの高校最後のライブに招待したんだ。先生に了承を得て、その日だけ外出を許されたらしい。ライブハウスの1番後ろあたりで見てくれてた。オレは必死にかっこよくやった。彼女の感想は、こうだった。『やめて。君の音楽はそんな音楽じゃない』って。泣きながら言われた。その時は今までやってきたことを否定された気がして、怒っちまった。そのあと彼女の病態が悪化した。当分面会拒否だった。悔しかった」
言葉を強くしていた。
よっぽど悔しかったのだろう。
「受験なんかしないし、オヤジの、この店を継ぐのも決まってた。単位が取れたら学校に行かないで料理の練習をさせられた。その時にオヤジに、オレのドラムを聞いて貰った。そしたら、辞めろとか言われた。意味がわからない。だから何がだって聞いたよ。そしたら、オヤジが叩いた。静かでソフトな、そんな感じだった。オレはその時に感じた。ただ叩くだけじゃないって。ビート、アクセント、ダイナミクス、リード」
指を折りながら数えられるそれらの意味は半分もわからない。
ただ、学んだ彼の今までは全て無意味、彼女のために一生懸命やったことが無意味だと言われたのだろう。
「オレは土下座して教えてもらおうとした。料理がうまくなったら、オレの舌をうならせたらいいと言われたから、卒業式に出ずに料理の練習をした。それがこのざまだ」
とても美味しいです。
「店の厨房を任されるようになってドラムも教えてもらえるようになった」
半端じゃない努力だったんだろうな。
「その頃になって、美月が面会を許してくれた。オレは急いで病院に行った。痩せ細ってた。オレは驚いた。いや、怖かった。今すぐに消えてしまいそうだった。だけど彼女は笑っていた。弱々しい声で、久しぶり、と言った。そこからの彼女の回復は目まぐるしいものだった。数日で退院できるまで回復した。その頃、オヤジの伝でテラコと晋三に出会って、3人で店で見世物をしていた。そこに、彼女が入ると言い出した時には流石にオレも止めた。そしたら、彼女は怒っちまって、もはや無理やりやることになった」
へぇ。3人の年齢がやけに高い気がしたのはこのせいか。
「内心は嬉しかった。夢にまで見た彼女との共演。拍手喝采だった。オレは、そう、その時だ。その時、彼女に告白した。彼女は何度か断っだけど、オレは諦めなかった。何回目かわからない。彼女は泣きながらOKしてくれた」