71、
落ち着くのにだいぶ時間がかかったようだ。
土門さんさえ私を心配していた。
「大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です」
セラ君はソファに座り外を眺めていた。
外は夕空で時計を見ると4時半くらいだった。
「とりあえず、パンケーキたべろや。サービス」
前に出されたパンケーキは、5段積み重ねてあり、その上に四角いバターとはちみつがかけられ、端にホイップクリームとチョコが添えられていた。
それを見ると急にお腹が空いて、一口食べるとまた涙が溢れてきた。
「あぁ、土門泣かした」
「いや、オレは……」
「ごめんなさい」
たどたどしい土門に謝らないでいられなかった。
「いやいや、ええんやで時雨ちゃんは。なにも気にせんと落ち着いたら送ってくさかい」
「はい」
なにもわからない。
なんで嫌いなのか。
意味がわからない。
悲しみが段々と怒りに変わりつつあった。
なにが嫌いなのさ。
嫌いなのになんで告白したのさ。
なんでこんなに楽しい日々を演出したのさ。
騙したアイツに怒り、騙された自分に怒った。
「なぁ土門、任せてええ?」
「ん? 仕事か?」
「まぁ、うん。新年は忙しくてなぁ」
「さっさと行けよ」
「えぇ、いってらっしゃいくらいいって欲しいんやが?」
「言わねぇよ。言うとしたらありがとうございましたぐらいだな」
「っんもう、土門のいけずー」
「今時いけずなんて使うのマルちゃんくらいだろ」
「マルちゃんにちゃん付なんだーー、意外と可愛いー」
「あ? サザエさんはサザエさんだろ? それと一緒だろ」
「いやぁー、じゃぁ私もちゃん付してみへん?」
「……皐月ちゃん?」
「きゃはっ! なんか元気でたわぁ」
「キモいなお前」
「そういうあんたもね」
このふたりは相変わらずだった。
それはある意味救いだったし、何より、声を出して笑ってしまった。
「よっしゃ、時雨ちゃんも笑ったし、バイト行ってくるで」
「いってらっしゃい」
駆け出した皐月さんに土門さんがそういうと振り返って頬を赤らめた。
そのまま店を出ていったが。
「まったく。意味がわからねぇ」
私も同じ気持ちです。
セラ君がいつの間にかいなかった。
土門さんに聞くと、結構前に出ていったそうだ。
私は土門さんの入れたコーヒーを飲む。
確かに美味しいとは言い難い。
テラコさんが入れるのうまいだけなのだろうけど。
「土門さんって好きな人いますか?」
そう聞くと、カップを磨いていた土門さんは私を一瞥して言い返した。
「あぁ。細かくは好きだった人だがな?」
「だった?」
「あぁ。今はお墓の中ってことだ」
「……ごめんなさい」
「大丈夫だ。もう……大丈夫」
自分に言い聞かせるようにしてつぶやき、カップを置いた。
「まぁ、だいぶ昔の話だ」
「どんな人だったんですか」
そう聞くと、土門さんの目線がピアノに向かっていった。
「セラのお姉さんなんだよ。簡単に言うと」