70、
なんやかんや、セラ君に報告することを先延ばしにしていた。
授業中にメールが来てもなんて返したらいいかわからず返さなかった。
テストなんてどうでもいい。
今はこの課題に直面して、私は静止している状態だ。
溜め息1つ。
お昼になると急激な空腹感にお腹の虫が鳴いた。
さぁ、はやく食堂に行こう。
講義室を出ると、そこに美晴はいた。
それ自身は驚いて、しかし急に嬉しくなった。
美晴は私が近寄るのを確認すると階段を降りる。
階段半分くらいで追いつき、歩幅を合わせて歩く。
「午後あったっけ?」
「講義? あるけど」
「そうか。今日先帰ってるな」
「わかった」
少しだけのやる気を削がれた気持ちだ。
食堂で相変わらず並ぶラーメンの場所に今日は2人で並んでいた。
私はしょうゆ、彼は味噌。
ほぼ同時に貰い、2人席に座った。
楽しい時間だ。
今までなにも感じなかったが、なんでこんなにたのしいのか。
あのうるさかった彼女は私の視界にはいない。
そう、束の間。
午後の講義が終わると私はあそこに行くことにした。
あ、名前覚えたよ。
カフェ・フェルメート。
まぁ、あそこでいいよね。
もうひとつの家のような場所に私は足を向けた。
あんなことになっているなんて知らずに。
私はドアを気軽に開けた。
カランカラン。
相変わらずの軽い音だった。
「おい!! 美晴!!」
「ちょっ! セラ!!」
もはや取っ組み合いになっていた。
セラ君が美晴の胸ぐらを掴み上げ、それをやめさせようとして皐月さんはセラ君を押さえていた。
「なんで黙ってんだよ! おい答えろよ!」
「だからやめろって!」
「意味がわからねぇよ! なんだよ! 時雨のこと好きじゃないんだぞコイツ!」
どういうこと?
「おい答えろよ!! なんで告白したんだよ! 嫌いなんだろ! なんでだよ!」
「セラ!」
「おい!!」
口を開こうとしない彼に私は限りなく、小さな希望をもった。
「おい!」
揺さぶり続けられ、お互い髪がぐしゃぐしゃだった。
「オレは、」
重い口を開いた彼は、まっすぐセラ君を見た。
「確かに嫌いだ」
「ってめぇ!!!」
……どういうこと?
美晴はセラ君に殴られソファに倒れ込んだ。
「じゃぁなんでだよ! 嫌いなんだろ! なんで告白したんだよ! そんなお前をなんで時雨ちゃんは!」
ごとん。
手に持っていた教科書たちを落とした。
それに気付いたのは誰でもない、美晴だった。
美晴はカウンターに置いてあった荷物を持ってそのまま私の横を通り過ぎた。
無言で、目さえ合わせず。
「……時雨……ちゃん」
急に足の力が無くなった。
その場に座り込む。
なんだったの?
なんなの?
苦しい。
なんなのよ!
なんなのよ。
涙が出てきた。
「なんなのよ……」
遂には声を出して泣く。
皐月さんが側によってきて私を抱き寄せた。
「大丈夫? 大丈夫?」
その問に私は返せず、ただただ、泣いているだけだった。