66、
帰宅の途中に商店街を通る。
そこでは夜中にも関わらず、お祭り騒ぎであった。
今目の前で餅つきが行われ、甘酒に豚汁、さらにラムネにリンゴ飴に射的に……。
なにか間違えている気がする。
いや、間違えてるようん。
「あ、餅食いてぇ」
「ん?」
美晴は私の手を引き、餅つきをしている所に向かった。
細マッチョなお兄さんとゴリマッチョなお兄さんが餅つきを、なんか辛そうにやっている。
そんなこと知らん顔で美晴は近くのテーブルにいる若い女の人に話し掛けた。
「ねぇ、ねぇちゃん。その大きなお餅頂戴」
因みに言っておくが、彼女は巨乳である。
隣で私が軽くいらつくと、女の人は笑って、
「あら、私結婚してるのよ。お餅何個かしら? 1個30円」
美晴は動揺もしないで笑い、ポケットから五百円玉を出して差し出した。
「これで買える分くれ」
「毎度あり! 味はどうする? きな粉、粒あん、みたらし」
「んー、あんこ多めの等分でくれ」
「はいよ!」
えぇっと、単純に10個は越えるね。
16か。
2人だと……、多くないかな。
出てきたのは1個私の拳くらいある確かに大きなお餅だった。
きな粉も粒あんもみたらしも十分以上にお餅に被っていた。
これは十分異常だ。
「っで、あんたの夫どっちだ?」
「あ? あぁ、細いほうよ」
「なかなかイケメンだな」
「あら、ありがとさん」
美晴は満足そうに振り返ると、女の人が急に叫んだ。
「イケメン美女のカップルお帰りです!!」
それを言われてあたふたするのは私だけだ。
周りの人が私たちを見てくるに決まっている。
私はうつむきながら美晴の腕に掴まり、隠れたつもりで歩いていった。
「堂々としてろよ。その方が可愛く見えるぜ」
「私アイドルじゃないからそんな自身ないし」
「……どっかのレコード大賞のアイドルグループよりは可愛いと思うぜ」
この男はなかなか与論をぶった切ってくれる。
家に着くと、お父さんが1人で冷蔵庫に入れておいた茹でた蕎麦をざるそばにして食べていた。
「お帰り」
「あ、ただいま」
「お邪魔します」
お父さんは美晴を一瞥して蕎麦を啜る。
美晴はその父の所に行きお餅を広げた。
「食べますか? 突き立てのお餅ですよ」
「……みたらし貰えるか」
「1個でいいですか?」
「うん」
私はお皿を出して、お餅をパックから出した。
美晴はいつの間にか入れてもらっていた缶ビールを出して開けていた。
「飲みます?」
「いや、オレはいい」
「じゃぁ、頂きます」
美晴はお父さんの反対側に座りビールを飲んでから粒あんのお餅を食べる。
「お仕事ですか?」
「そうだ」
「年末に大変ですねぇ」
「仕事だからな」
食べ終わっていた蕎麦のお皿を片付け、ポットに作られていたおゆでお茶を作り出した。
「君が柘植君か」
「はい」
「学生か?」
「学生兼です。会社に今年入れてもらいました」
「年収は?」
「240」
そうなんだ。
だから東京に出るんだ。
バンドは自営業じゃない。
そういうことなのかもしれない。
「オレは320」
そこは競わなくていいと思う。
「時雨、焼酎くれ」
「はいはい」
どこに気分が乗るところがあるのだろう。
とりあえずここから男の謎の会話が始まった。