64、
かなり厚着をして、地元の神社に来ていた。
美晴は相変わらずだが、私は母から大きいのを借りてみた。
白いダウンコート。
「なぁ、それ時雨の?」
「お母さんの」
「だよな」
似合わないですよね。
そうですよね。
わかってましたよ。
神社には人が溢れ返るくらい人がいて少し入るのを躊躇した。
「おい、行くぞ」
「う、うん」
「ったく、ほら、はやく」
そう言われるなり、左手を握られた。
つよく引っ張られ飛び飛びの敷石に足を躓きながら、そのまま列に並ぶ。
意外と冷たい手。
風が吹くとあまりの寒さに手を強く握ると、同様に強く握ってくる。
「ねぇ、もうよくない? ……その……手……」
「……。はぐれたらいやだろ。お前ドジだし」
「ドジじゃないもん」
「ドジだ。黙って握ってろ」
彼の体が少し離れた気がして、ふと美晴を見た。
そっぽを向いていた。
普段は隠れているはずの耳が出ていて、寒さのせいか真っ赤になっていた。
「意外と恥ずかしいんでしょ」
「……寒いんだよ」
そうですか。
賽銭箱にお金が投げいれられるのが段々と見えてきた。
「なぁ、そろそろ来年だぜ」
美晴は新しい安物の腕時計を見てそう呟いた。
私は美晴から貰った腕時計を見る。
短針はもちろんだが、長針さえ12の所に限りなく寄り、1番早く駆ける秒針は6を過ぎたあたりだった。
周りの人も時間を気にし始めた。
残り20秒。
女子高生たちがカウントダウンを始めた。
残り18秒。
17。
16。
1歩進んだ。
15。
14。
13。
嫌でも時間を気にしてしまう。
12。
11。
10。
女子高生だけじゃなく、親子も、カップルもカウントダウンし始める。
空を見上げる。
9。
8。
実に晴れていた。
星はうるさく光り、月はここぞとばかりに満月だ。
7。
6。
5。
「なぁ、時雨」
4、
3、
「なに?」
2、
1、
「好きだ」
驚いて美晴の方を向いた。
0。
あけましておめでとうございます。
周りの人達が言っている中、私は口を動かせないでいた。
いつの間にか、眼鏡を外し、マフラーは口を避けていた。
一瞬なにが起こったかわからなかった。
わかるのは、離れた美晴の顔がとてつもなく、赤かったことだけだ。