62、
ベンベン。
ベンベン。
ベンベン。
明らかに雲泥の差があることはわかっていたが、初心者とアマチュア、アマチュアとプロの差はここまであるのかと思わされる。
まぁアマチュアすっ飛ばしていますが。
「そうそう、それで音階ができたな」
ギターを美晴が持ち、同じことをする。
まぁ同じには全く見えないし、聞こえない。
「すげー」
「やってりゃこのくらいはできるよ」
返してその練習をさせていた。
私はみかんを食べながら、弟が持っていた少年誌の単行本を1巻から読みあさっている。
「そうそう。これが早くできるようになると、こんなんのができるんだよ」
そう言ってまたギターを持った。
するとダンドリオンの有名なギターソロを弾き始めた。
「これ、音階を捻ってるだけだから意外と簡単にできるんだよ」
「かっけー!」
そうなんだ。
意外と好きなんだけどなそれ。
「こんなんじゃつまんねーからコードでもやるか」
ここからスパルタになる。
いや、Fとか言ってたかな?
それだけで何時間かやってた。
どの位かって?
3巻から8巻が読み終わるくらいかな。
日が暮れてきてそろそろ母の手伝いでもしようと思い最後のみかんを食べて無言で出ていった。
どうやら蕎麦らしく、買ってきた蕎麦がカウンターの所に乗っていた。
今はおせちを作っている。
みたい。
「あ、いいところに。かまぼこ切って」
はいはい。
そのために来たのですから。
私はおせちを着々と盛り付けていき、いつもの3倍くらいある量を重箱につめていった。
紅白が始まる時間。
私は一旦手を休めてテレビをつけた。
最近買った36インチのテレビ。
ムダにでかいのだが、今日に限っては丁度いい。
大画面でダンドリオンが見れるのだから。
「かぁさん腹減った」
上からゾロゾロと男どもが降りてきた。
「あらそう。じゃぁ、時雨、蕎麦茹でちゃって」
「はいはーい」
蕎麦もいつもの何倍あるんだか。
あらかじめ沸かしておいたお湯に蕎麦を入れる。
普段より数多い蕎麦に、私は違和感を覚える。
それが、とんだ幸福感だったなんてこの頃は知らなかった。