61、
「ギター弾けるようになりたくて」
「いいよ」
いいのかよ!!
軽い返事。
断られると思ったのか(いや、断るとおもったが)、おバカは驚いた顔をして、そのあとに歓喜の声を上げた。
「ホントに!?」
「男に二言はない」
ちゃっかりイケメン発言とかカッコ悪い。
「でもオレギターないよ」
「これ使えばいいんだよ」
「それ、他人のじゃ?」
「大丈夫大丈夫。カジのだから」
きっと誰のかわかっていないだろう。
いや、私だって気づかなかった。
なんだカジ君のか。
っとテレビに目をやった瞬間に、カジ君って言えばダンドリオン紅白でるんだったなぁと思い出し、録画しようとリモコンに手をやったらギターの持ち主がとんでもない者だと気づいた。
「ちょい待てい!!」
2人はどうやら弟の部屋に行こうとしていたらしく、立ち上がっていた。
きょとんとした視線が私に向けられるのだが、そんな筋合いはない。
「ギター、カジ君のでしょ? 紅白は?」
「これカジの練習用。問題ないだろ?」
ま、まぁそうなのですが。
とても神秘的なものに触れているとおバカは気づくのだろうか。
「変な姉貴。行こうよ!」
「あぁ。変なやつは置いてくか」
「そうね。変な娘置いて買い物にでも行こうかしら」
母は何故入ってきた、ってかむしろ荷物持ちにならないで済んで嬉しいわ!
「お父さんに車出してもらおうっと。行ったついでに叩き起こしてきて」
「あいよー」
彼、今日も仕事じゃありませんでしたっけ?
朝7時くらいに帰ってきたような……。
なんやかんや居間には私一人になってしまった。
電気ストーブに足を伸ばし、紅白の録画予約をして、いつの間にか終わっていたお笑い番組からチャンネルを回していた。
外で車が出ていった音がした。
2階ではベンベンと下手なギターの音が聞こえる。
軽くいらつくくらい、耳に毒なほど下手だ。
面白そうな番組はない。
ニュース、食べ歩き、推理ドラマくらいしかやっていない。
年末なんだから笑って食っちゃ寝、食っちゃ寝していたい。
テレビを消して電気ストーブと暖房も消した。
立ち上がって、みかんを7個持った。
暇だから遊びに行こうかなぁ。
おバカの部屋に。