60、
「お邪魔しマース」
大晦日。
私はお笑い番組を見ながら頬杖を付き、甘いみかんを食べていた。
そんななか、あいつは来た。
母は飛んで彼を向かえに行ったが、ワタシは微動だにせず、むしろ険悪ムードを出していた。
いや、そもそもあれなのだあれ。
察してください。
電気ストーブに足を向けるとあいつがこっちの部屋に来た。
「ご招待ありがとうございます」
無反応に目だけを向けた。
いつも通りの真っ黒い服装なのだが、何故ギターを背負っている?
「ん? これか? いや修理頼まれてな」
あっそうですか。
勝手にしてください。
「ここらへんは適当に使っていいですか?」
「いいわよ。そこらへん使って困るの時雨くらいだから」
はい大迷惑です。
お笑いタレントが落ちを言ったらしく大爆笑しているが、コイツのせいで聞いていなかった。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
電気ストーブから少し離れた場所にギターを広げ何やら太い鉄製の紐かなんかを取り出していた。
キュルキュル、とかビン! とかうるさい。
軽く貧乏ゆすりが始まる私の足はどうやら苛立っているらしい。
「大晦日にお仕事なのね。大変ねぇ」
「金ないっすから。このくらいやらないと」
「そうなの。偉いわねぇ。あの子なんて浮いた話さえないのよ」
つまらない娘で悪かったわね。
「バイトもしてないし、彼氏らしい彼氏柘植くんくらいだし」
「彼氏じゃないし!!!」
「……ね? 顔真っ赤にして可愛いでしょ?」
あのおばさん軽く困ってるし。
「そんなにからかうと可哀想ですよ。それに、オレ来年の秋には東京に出るんで、お付き合いしたらきっと辛いものになるだけですよ」
なによ。
付き合わなくても辛いわよ。
……バカ。
じゃらーん。
ギターを奏でて、終わったのか背伸びをした。
「っおし、終わり」
「お疲れ様。お茶でものむ?」
「あ、はい。頂きます」
私は新しいみかんを剥き始める。
すると、ドタドタと階段を駆け下りる音がした。
と思ったらドカンと大きな音がした。
転げ落ちたな。
ドアが開き、頭を押さえながらいつになくやる気がある目で美晴を見ている弟。
「なにギター?」
「その前に挨拶は?」
「あ、どうも」
まったく礼儀がなってないなぁ。
と思いつつも私もまだ挨拶してないや。
まぁ、いっか。
「そんなことよりギター、なんで?」
「柘植くんはねぇ、なんていうの? ベンベンやるお仕事なのよ」
「まぁ、ギター弾いてるだけだけどね」
「あのさあのさ!」
あのおバカが美晴に近づいて正座をした。
「ギター教えてください!」
……。
…………。
は!?