6、
雨の降っていない午後3時。
珍しく陽射しがあり、久しぶりに見えた遠くの山々が雪衣装をかぶり、真っ白く色付いていた。
もう冬になる。
冬が来ることを待ち遠しく思うことはないけど、なんだか四季と言われる日本独特の風情感情を感じるというものは、本当のワビサビを知らなくともそれに近い感情を受けることができた。
落ち着く。
冷たい空気を肺一杯に入れて、吐き出すと白い息がふわっと上がった。
視線を落とし、まっすぐ、誰もいないホームの先頭に並んだ。
そんなことをTwitterにでも書こうと携帯に視線を向けた時だった。
柘植くんがいつの間にか後ろに立っているのを、携帯の黒くなった画面に写った柘植くんで気づいたのだ。
私は恐る恐る振り返る。
彼は相変わらず黒いマフラーで顔を半分隠していた。
「や、やぁお疲れ」
今日は私から声をかけてみた。
彼は微動だにしない瞳を私に向けて、ポケットに突っ込まれていた手を出して私のほっぺに当てた。
「冷た!」
私は氷のような手から離れる。
「なにすんのよ!」
「寒いからさ」
「私だって寒いの!」
「いいじゃんか。黙って温めろよ」
「いやよ! いや!」
舌打ちをしてまたポケットに手を突っ込んだ。
やっとついた電車の扉を開けて中に入り、いち早く椅子に座った。
もちろん柘植くんは隣に座る。
そうなると嫌でも体が触れる。
確かに彼は冷え性なのかと思わせるくらい体全体が冷たく、知り合いで無ければ席を空けたいくらいだ。
「なんでそんなに冷たいの?」
彼は首を傾げて、知らんと一言呟いた。
きっと原因はその体の細さだろう。
ぜい肉というものが全く見て取れず、骨と皮だけではないかと思う。
さらに身長が175cmくらいありそうである。
そのためか、黒を貴重とする彼の服装は嫌にかっこよく見えた。
「体重どの位?」
彼は私の方を向いて不思議そうな目を見せた。
「58」
怒りを感じるくらい軽い。
どうしたらそんなんになれんだ。
「太れなくて困ってんだ。知ってるか? 痩せすぎって早死するの」
「知らないわよ! そんなこと! 私も言ってみたいわ! 太ってみたいとか!」
「え? 十分痩せてんじゃん。それでもダメなんか?」
「ダメなのよ!」
彼は顔を戻した。
もう、ホントにこいつはなんなのさ!
「あ、そうだ! 時雨、今日暇か?」
「暇よ。なにか?」
「スイパラ行こうぜ」