59、
土門さんが帰ってくる前に私は店を出た。
皐月さんも一緒に出て買い物に付き合わされることになっている。
「そんなことないやん、せやせや、ウチがそんなことないんや、」
さっきっから独り言しか言わない。
むしろ恐怖だった。
この人、本当に皐月さんなんだろうか。
たまたま道中に中央公園を横切ることがあった。
ここらへん一体では確かに広い公園ではあるが、住宅地の間に無理矢理建てられているので広い場所とは言い難い。
寒いのだが、子供達は元気に飛び回っている。
アスレチックにブランコ、サッカーをする子や犬とフリスビーで遊ぶ子、色々とやっていた。
「懐かしいなぁここも」
「そうなんですか?」
「あ……あぁまぁ、ここらへんはずっといたからな」
どういうことなのだろう。
「あたし、見た目こんなやろ?」
確かに、近寄り難いオーラはある。
「小中友だちおらへんかったんや」
そうなんだ。
公園の半分まで来て皐月さんは急に止まった。
彼女の見る方は、誰からも忘れ去られたようなベンチだった。
「ま、今じゃ友だち100人おるけどな」
満面の笑顔。
ただ、無理矢理な気がした。
「さ、行こ行こ、こんなんじゃ日が暮れちゃう」
皐月さんはそのまま歩いて行こうとした。
「危ない!!!」
大きな声。
そっちを見るとボールが凄い速さで私に真っ直ぐ飛んできていた。
「きゃぁぁぁ!!」
「時雨ちゃん!!」
目を瞑った。
人間とは便利だ。
事わからないように目をつむる。
お陰で避けられもしないのだが。
ドン。
軽い音だった。
「ったく。危ないだろ!」
その声に聞き覚えがあった。
「時雨ちゃん平気?」
男性の声だが、女性のような響きがある声。
そっと目を開けた。
「セラくん?」
上空に上がっていたボールを片手で取った。
「時雨ちゃんもしゃがめば避けられるのに
」
「うん……」
「でもケガがなくて良かった」
近くにきた少年にボールを返した。
「土門さんと待ち合わせてるからごめんね。よいお年を」
「うん。よいお年を」
そのまま行ってしまった。
なんか、かっこいい。
「時雨ちゃん。生きてるか?」
「うわ! は、はい」
「驚かれるようなことしてへんのに驚かれるとは心外やなぁ」
「すみません」
「まぁ、ええよ。行こや。ホントに日が暮れてまう」
心臓がうるさかった。
なんでこんなに、ドキドキしているのだろうか。
私にさえわからなかった。