58、
帰りに土門さんのお店に寄ることにした。
行くと店内はなにも変わらず、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
そこにはテラコさんと皐月さんがいた。
「やっほー。どうしたの?」
皐月さんがにこやかな顔で手を振っているのだが、如何せんチョコの生クリームがほっぺについている。
「皐月ちゃん。ほっぺたにクリームついてるわよ」
「え!? ホンマか!!」
慌ててほっぺたにを擦るものだから余計に広がってしまった。
私は苦笑しながらいつのもカウンター席に座る。
「テラコさん、美味しい紅茶を下さい」
「よろこんで」
慣れた手つきで紅茶を入れ、私の前に出した。
「ミルクとレモンはいかがでしょう」
「レモンください」
すっと、お皿に乗った輪切りのレモンが出てきた。
「本日は限定にショコラティラミスを無料で出していますがいかがでしょうか」
「あ、ください」
すぐに出てきたティラミスはクリスマス様のものなのか、豪華な飾りが施されていた。
「ごゆっくりどうぞ」
「ってかテラコはん、仕事まだあるやろ?」
「ん? そうね」
「なんで毎日いるんや?」
「逆に皐月ちゃんもなんで毎日いるのかな?」
なんなんだろうこのふたりは。
毎日ここに蔓延っているのか。
「あたしは暇だからや」
「私は長期休暇もらってるだけ」
私はティラミスを一口食べた。
とても甘い。
甘いのにショコラパウダーは苦味と香りを放ち、上に乗っていた大量のチョコの生クリームにしつこさはなかった。
「皐月ちゃん、告白しないの?」
コーヒーを盛大に吹き出す。
「な! なんのことやねん!!」
「え? いるんじゃないの好きな人」
「いるわけあらへんがな!」
「へぇー」
とても楽しくなってきた。
あのたくましかった皐月さんが急に情けない顔になり、頬が仄かに赤くなった。
「土門いないんだし言っちゃいなよ。誰なのさ?」
「いないゆーてるさかい!」
「そんなに言いたくないの?」
「だからおらへんて!」
「あらそう」
「ああ、そうや」
「後悔しない?」
その問に急に静かになった。
少しの沈黙が罪悪感を噛み始めた。
「まぁ、後悔しないようにね」
そう言うテラコさんは目を私に向けてきた。
にやりと、あなたもよと言われたような、そんな感じだった。