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しぐれぐむ  作者: kazuha
クリスマスの微笑み
54/200

54、




「かんぱーい!!」



 ライブは大盛況。

 予定していたより人が入ったらしく、それはとてもよかったと思う。



「てか、なんであたしに内緒で勝手に東京行くとか抜かすのさ!」


「いいだろ。サプライズだよサプライズ」


「ほら飲めよ。今日ぐらいはぱーっと行こうぜ」




 乾杯した後、美晴と土門さんと晋三さんのビールは既に空になってた。

 なんともまぁ景気がいい飲み方だ。



「もう! やけ酒だ!」


 それに便乗してか皐月さんもビールを飲み干す。


「すみませーん! 店員さん! 生よっつー」



 私はオレンジジュースをちまちま飲みながらお通しに出てきた枝豆を食べていた。



「あ、店員さんいいかしら?」


 生ビールが来た途端にテラコさんが料理をガッツリ頼んでいる。

 うん。

 からあげ、軟骨、チョレギサラダ、チャーハン、イカの炙り焼き、お刺身、玉子、エイヒレの炙り焼き、きゅうりとなすの漬物、クリームチーズとパンのやつ……


 えー。

 食べれるのですか?


「後、モツ鍋4人前で」

「以上でよろしいですか?」

「はい、お願いしまーす」

「あと! ファジーネーブル」

「ファジーネーブルですねぇ。以上でよろしいですか」

「はい!」


 皐月の謎の注文。

 まだ満タン近いのだが。



「よし、あたしに付き合おうか時雨ちゃん!」



 気のせいだろうか。

 この人もう酔ってる。



 私は飲まされないようにオレンジジュースを残しながら枝豆ばっかり食べていたが、サラダは流石に食べた。


 ファジーネーブルと言われる、グラスが違うだけでオレンジジュースとなんら変わりないものが来た。


「はい時雨ちゃん! あらしと一緒にのぶよ!」


 あらしと一緒ののぶよさんって誰やねん。


 っとツッコミを入れる前にグラスを持たされ、半分くらいしかないビールがグラスにぶつかってきた。



「時雨ちゃん。乾杯したら一気に飲まなきゃいけないんだよ」

「えっ!」

「こらセラ! 私にならまだしも時雨ちゃんをいじめないの」

「テラコさん潰れなくて面白くないんですもん」

「ぷはぁ! ほら時雨ちゃんの番やで!」


 私は渋々それを一気に飲み干した。

 すると歓声があがる。


「凄いやん! いやぁ、お見事! もう1杯くらいいけるよね! いける? おっけ。店員さーん! 梅酒2つ! ロックで!」



 ちょっとまてよ!?


 この人、もう既に私ヤバイのわからんのか!?




 そんなこんなして、私も何杯か飲まされた。


 視界がぐるぐるする中で、テラコさんがケーキを出した。


 それは、お店で出されている様な美しいケーキだった。


「作ったの。食べましょ」


「きた! テラコのケーキ!」


「楽しみだよな。毎年」


 晋三さんが店員さんにナイフを頼む。



「あれ? 時雨。お前もサプライズ用意してなかったっけ」


 あのぉ、とても出しづらいんですけど。


「なになに? ケーキ?」


 セラ君。

 正解。




 するとバチバチっという音が聞こえ始めた。


 お店の方で装飾してくれたらしい。


 ロウソクと花火がついた、私のケーキが出てきた。




「これ」


「おお! ケーキやん! ええねええね!食べよ食べよ!」


 ナイフとお皿も持ってきて貰って、なんとも言えない恥ずかしさのなか、テラコさんのケーキを食べる。




「あ、意外とうまいわ」

「うんそうね。見た目に反して」

「やっぱり……」

「ごめんね! うん美味しいからさ! うんうん」



 少しテンション下がってる。

 うん。

 テラコさんと被るなんて最悪の事態だもんな。

 しょうがないよな。



「僕はこっちの方が好きかな」


 いつの間にか隣りにいたセラ君が私の頭を撫でながら1番小さな苺を食べた。



「うん、美味しい」

「ホント?」

「うん。時雨ちゃんが作ったものなら僕は全部食べるよ」



「おいセラ! あたしの時雨ちゃん取るんじゃないよ!」

「はいはい、じゃぁむしろ頂いてきまーす」


 そう言って立ち上がった。


「一緒に外行かない?」

「うん」



 その意図を私はわかっていなかった。

 立ち上がりマフラーだけ持って手を引いてくれるセラ君についていく。




 外は非常に寒い。



 酔っ払った人達が右往左往する中で私たちはお店の前にいた。


「あのさ」

「うん」

「東京行くって聞いたときどう思った?」

「なんか、寂しいって」

「うん、僕も。時雨ちゃんと会えたのに、また離れなきゃいけないからね」

「うん」

「あのさ。一緒に来ない?」

「え?」

「僕の隣りにずっといてくれない?」




 酔いのせいなのか、意味がわからなかった。

 どうしてそうなったのか。

 私はまた聞き返した。



「どういうこと?」




「ーーーー好きなんだ。すっごく。すきなんだ。付き合ってくれないかな?」




 クリスマスの新曲が頭を過ぎる。



「えっと。あのぉ……」



 頭が真っ白だ。

 言葉も出ない。

 いや、私がセラ君のことが好きなのかさえもわからない。


「えっと……」


「ーーーーごめん。急だったよね」


 彼は笑顔でそう言った。


「年明けたらでいいよ。時雨ちゃんの答えが固まるまで僕、待つよ」



 私は小さく頷いた。


「戻ろうか」



 店内に戻るといらっしゃいませと言う声が飛んできた。


 しかし、入口担当の人が大丈夫です的なことをインカムで流していた。



 席に戻ると、皐月さんが泣き崩れていた。


 テラコさんがなだめ、晋三さんは困っていた。


 なんで東京に行っちゃうのさ。


 そう、叫んでいた。


 来年、私の誕生日月に上京するらしい。


 こっちには戻ってこない。

 そう言っていた。


 知り合った人も、お店も、なにもかも無くなるのかと思うと学校辞めて着いて行ってしまうのも悪くはないかな。


 土門さんと美晴はいまだに飲み続けている。




 私は座る。目の前にあったお酒を飲んだ。


 美味しい。


 思考が戻ってくるようだった。



 少しだけ荒れたこの場所でなら、飲み倒れても気づかれないだろう。


 その黄色い不透明な液体を飲み干した。









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