53、
いつかの恋愛小説でも読んでいるようの心境だ。
恥ずかしさなのか足元はふわふわするし、あんなに好きだよなんて言われたら……うん……ね……好きだよ……
いやいやちょっとまて。
1曲にこんなダメージ受けてたらとてもじゃないがやってらんないぞ。
うん。
「どうだった? 僕からのプレゼント」
僕から?
作詞作曲は美晴の仕事では?
その問にはしっかりと答えてくれた。
「この曲に関しては作詞作曲は僕なんだ。僕の初作品。どうだったかな?」
さいこー
だいすきー
最前列がそろそろうるさい。
私は手櫛で適当に髪を整えた。
1度深呼吸すると、誰かの服についたタバコの臭いを感じた。
キーボードがピアノのように1個1個の音を重ねていく。
「サンタさん、いるのかなぁ?」
セラ君が問うようにつぶやいた。
「僕はいないと思うんだ」
なんでー?
だそうだ。
「だって、僕が君のサンタクロースだからだよ」
再び始まる曲は私でも聞き覚えがあった。
あの時に演奏してたやつだ。
美晴に連れられてここに来たときの。
美晴のギターが凄いことしている今年かわからないが、1番ロックらしい曲である。
そう、こっからはいつもと変わらない曲が続いた。
私にとっては目新しさ満タンなのだが。
5曲くらい続いただろうか。
それで最後の曲となった。
「みんなありがとう。ここで言わなきゃいけないことがあるんだ」
ザワザワ。
突然の発言に誰一人として明るい顔をしなかった。
「結構前に決めてたんだけど、今日言うね」
なんだろう。
嫌な予感。
なにかとてつもなく怖い。
「僕たち、東京のミュージック会社にオファーが来てるんだ」
凄いじゃん。
拍手が湧き起こった。
「うん。でね。……CDはいつものように発売するんだけど」
言葉を選んでいるようだ。
言いづらい。
そんな顔をしている。
「あのね。メジャーデビューしないかってオファーなんだ。だから、ここ故郷を出て東京に挑んでくる!!」
ガシャン。
後方で重いものが落ちた音がした。
それ以外は、むしろ、虚しいほどに応援とメジャーデビューした喜びで拍手が鳴り響いていた。
うん。
いいことだ。
とても。
でもなんだろう。
素直に喜べない。
本当に、喜べない。