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しぐれぐむ  作者: kazuha
クリスマスの微笑み
44/200

44、





 始まったのは、音楽に疎い私だもわかる洋楽だった。




 甘いピアノの旋律とセラ君の美声。


 溶け合って、まるで星空を連想させるかの壮大感。

 それでいて規則のない星たちを辛うじて引き止めているリズムは、太鼓だといいはれないほど、多彩な音色を見せていた。



「すごいだろ」


「うん。すごい」



 圧倒なんてもんじゃない。

 いやむしろ逆だ。



 吸い込まれていく。

 ブラックホールがそこにあるみたいに、そこにある世界に吸い込まれていく。



 英語の歌詞も発音が完璧。

 ピアノは左の和音と右の追い旋律。

 ドラムは規則正しいリズム。



 なんて当たり前だと言わんばかりに、

 声は艶やかに掠れ、

 不協和音はスパイスに、

 むしろ私が旋律だと、

 心臓と共に動く打点は、

 それこそ味であり、個人個人が主張する果てに、アンサンブル、統一感があった。




 しっとりと、心に刻まれていく、I Love you.も、まるで、私1人だけに言ってくれているものだと思わせる。


 綺麗に伸びるハイトーン。



 真剣な顔の、少し辛そうなセラ君。



 惚れてしまいそうだった。


 いや、惚れてしまったかもしれない。




 曲が終わっても、この興奮は収まらず、ただ心臓の鼓動がはやく収まらないかと胸を押さえた。




「ふぅーふぅー! よ、イケメン!」


「やめてよ皐月さん。まだまだだって」


「いや、でも上手だったよ!」



 つい言ってしまった。


「ありがとう」


 舞台から降り、照れくさそうに答える。


 それだけで、収まりかけていた鼓動がまた早まる。



「にしても、皆レベル上がってるよな」


 美晴がもう中身が入ってないカップを置いてそう言った。


「これなら……」


「美晴! ほら、体冷しちゃ悪化するよ! テラコさん、新しいの!」


「はいはい」



 テラコさんはうすら笑いを浮かべてまた水場に入った。


 なんなんだ?


 なんか隠し事?



「なにさなにさ! なにか隠し事かな? おねぇさんに隠し事していいのかなぁ?」


 さすが皐月さんといった感じだ。


「何もないよ。……ね?」


「いや、何もなくねぇーよ。これなら……」


「あー! あー! あー!! 土門! デザート!」


「あいあい。美晴、ドラムかたしといて」


「なんでだよ!」


「いいだろ? お前デザート食わねぇんだし」


「いいじゃんかセラでもよ!」


「いいからかたせ」



 土門さんは厨房に消えた。


 渋々ドラムの片付けに立ち上がる。


「ふふ。隠し事できない人ね。2人とも、聞いたらもう飲み物出さないからそのつもりでね」


「そりゃないよー! テラコさん!!」




 なんか、腑に落ない。


 みんなで隠し事?


 なんなんだろう。



 気になるけど、この紅茶が飲めなくなるのは嫌だった。




「なぁ、メルアド」



 レアチーズケーキを食べているときに、ドラムセットを片付け終わった美晴が、唐突に聞いてきたのだ。


「持ってるだろ」


「う、うん」


「はやく」


「うん。赤外線……」


「受け取る」


 あ、はやい。ちょっと、いや、まっ、うん。


「送るね」

「あぁ」



「まだ交換してなかったんだ」 

「コイツが携帯忘れたりするから」

「え? いつ?」


「……一週間くらい前?」


「え? だったら」

「そうなの! 忘れたの、うん」


「う、うん」


 危な!


 セラ君、ここで空気読まないのか!



「おっけ。送るぞ」

「は、はい」


 こうして、メルアドを交換してしまった。


 あぁ、そろそろ、海にでも沈められちゃうんじゃないだろうか……。



 そんなこんな、今日1日が終わった。

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