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しぐれぐむ  作者: kazuha
クリスマスの微笑み
43/200

43、




 ゴホンゴホン。


 左から咳の音が聞こえる。


 紛れもなく彼なのだが、誰も気にしないので私も気にしないことにした。




「そういやぁ、晋三やつはどうしたよ?」



 カツカレーを食べながら土門さんはそう聞いた。


 セラ君と美晴の間に座り、飲むように食べている。



「師走だからねぇ。会社の方が追い込んでるんじゃない?」

「晋三は大変だなぁ」

「本当ねぇ」


 テラコさんは私の隣でカルボナーラを食べている。



「てか、そろそろ本番やけど、練習してんの?」


「まぁまぁ、かな。新しい曲はないからそこまで合わせる必要ないし、僕としてはあまり歌って喉ダメにしたくないしね」


「そんなにキー高くないだろうがゴホン」


「今の咳はわざとでしょ」


「そんなことなゴホン」


「嘘っぽ」


「まぁまぁ。私としてはセラちゃんの高音聞きたいのだけどね」


「テラコさん、僕そんなに高くいかないんですよ」


「だからって練習しないのかよ。よお、セラよお」


「土門、また鼻にカレーついてるよ」


「ぬお!!」


「練習してないわけじゃないよ。ただ、限界かなぁって。Fから上がらないんだよ」



「へぇ。前はCじゃなかったかしら?」


「それいつの話ですか?」


「さぁ、いつだったかしらねぇ」




 繰り広げられる会話についていけないでいた。


 先日知り合った私が知っていることなんてたかが知れてるし、なにより知識もない私が、大丈夫、上手だよ、なんて言っても説得力がない。


「なぁ、時雨ちゃんがいるんやから、あれやらへん? あたしも聞きたいし!」


 相変わらずのエセ関西弁で問いかける。


「あれ? なんですか?」


「いやぁ、セラフィールドっつうのかな?」


 全く想像ができなかった。


「やるったって、晋三いないしよ」


「いなくても、私がカバーするわよ」


「え! やるのかよ」


「いいじゃない。時雨ちゃんの為だって思えば」


「わかったよ」



 土門さんは食べ終えたカツカレーを厨房に持っていった。


「準備するから待ってろよ」


 奥でガチャガチャと聞こえるようになると、テラコさんが新しい紅茶と、洋菓子をポツンと置いた。


「これでも食べながら待っててね」


 テラコさんもピアノに行き指の練習なのか軽やかに引き始める。



「僕、やるなんて一言も言ってないんですけどー」


 嫌々、立ち上がり、私の後ろを通る。


「時雨ちゃん、ちゃんと聴いてね。時雨ちゃんの為に歌うから」


「えーあたしはー? ひいきずるいやん」


「皐月さんはもう何回も聞いてるじゃん!」


「うん、ちゃんとミスったらわかるで」


「う、もうミスりませんから」


 ステステ。


 顔を見ないまま舞台に行ってしまった。



 ワクワクしている。


 なにが始まるのかわからない。


 淡々と作られていくドラムセットと、場つなぎに奏でられるピアノの幻想曲。


 セラ君は、目を瞑って、瞑想でもしているようだった。



 スチャ。


 ドラムのハイハットが踏まれた音がした。



「よし、終わり!」


「じゃぁ、始めるわよ」


「うん。いいよ」




 空気が一瞬で変わった。

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