42、
カランカラン。
丁度オムライスを半分食べたくらいの軽い音だった。
「あ、皆さんお揃いですね」
セラ君だった。
久しぶりに会ったが、変わったのと言えば髪を切って、ダウンジャケットを着ていることくらいだろう。
短い髪は元気がなくペタッとなってはいるが、それはそれで清楚な感じがある。
今日はメイクでもしているのだろうか?
異様にまつげが長い。
「土門、僕はオススメがいいな」
「おうよ!」
白いダウンジャケットを脱ぎながら私の2つ左、美晴の2つ右に座る。
ダウンジャケットの下はピンクのパーカーで、大きめのボンボンがフードの紐の端となっている。
紺のデニムパンツは細い足を助長させているように、細く長い足が目立った。
パンツの先は茶色いブーツにインしている。
「こんにちは、時雨ちゃん」
「こ、こんにちは……」
すっとこっちを向いてきて、にこやかに笑い私の食べているものなどをチラッも見た。
「あれ? 皐月さん、また土門おちょくったの?」
「違うよー、土門がいじめてきたんだよー」
「あはは。そうなんだ。まったく被害貰ったね時雨ちゃんは」
う、うん、そうなんだけど、なんでわかるの?
「ってか、この紅茶、まっずいやつ?」
「ご名答。はい、ダージリン」
「あ、ありがとうございます」
直ぐに出されたのは私に出された紅茶とは全く異なる、高貴な香りが鼻をくすぶったものだった。
「それ出されたってことは時雨ちゃんはオススメにしたのかな?」
一口飲み、カップを置く。
「飲んでみる? 全然違うよ」
私に出されるカップ。
「いや、でもさすがに……」
「なに? 紅茶嫌いになった? なら尚更飲むべきだ」
それを渡されてしまった。
少し熱いカップ。
セラ君が飲んだ後のカップ。
「ほら、飲んで飲んで!」
あ、はい。
わかりましたよ。
飲めばいいんでしょ、飲めば!
一口。
美味しい。
甘くない。
でも、香りが甘くそれだけでも甘味として十分だった。
「あは、間接キス」
意地悪く笑顔だった。
顔が熱くなる。
「知っててやったでしょ!」
「うん。どんな反応かなぁって」
「むぅ!!」
「膨れてる! 可愛い」
「もう!」
私はカップを返してオムライスを食べ始めた。
「あれあれ? セラっちは弱いものいじめするこだっけ??」
「皐月さん、それは違うよ。僕の周りにからかえる人がいないだけで、普段はこんな感じだよ」
「そりゃそうだよね。泣き虫セラくんはあたしに睨まれただけで逃げ出すようなこだもんねぇ」
「いやいや、皐月さんの睨みつけは小動物なら簡単に殺せますよ」
「これはどうもありがとうございます」
セラ君の前にベーコンエッグサンドが出されると、片手でそれを持ち一口食べる。
咀嚼して飲み込むと、彼はこう言った。
「まぁ、好きな人はいじめたくなるっていう、所謂小学生的な考え方なんですけどね。本当は」
それのいみをわかったのは、このあとセラ君が歌う頃だった。