40、
私にとっては冬休み前日の講義が終わり、晴れて冬休みとなる。
まぁ、課題の量は凄いけど、こなせない量ではなかった。
私は皐月さんと一緒に学食に向かい、美晴を拾って、いつものところで食べようとなったが、彼の姿はなかった。
隣で電話をかけている皐月さんは、おっかしいなぁ、と呟いている。
「出ない! あぁ、こんなときに何してやがるんだよヨシくんは!」
私はセラ君にメールする。
美晴どこにいるか知ってる? と。
まぁ、普通なら知らないであろう。
案の定、知らない、と返ってきた。
ですよね。
「おい、よし! どうした! パクられたか?」
「おいおい、朝っぱらからうるせぇよ」
「もう昼だ! メシ食いに行くぞ!」
「あぁ、どこだ?」
「いつものところ」
「おっけ、今向かうから先行ってて」
どうやら繋がったらしい。
スピーカーモードで会話がだだ漏れだった。
「じゃっ、いこっか?」
「あ、はい」
半ばムリヤリな感じではあったが、美晴が来るらしいので行かないわけにはいかなかった。
私たちは宣言通りに先にあのカフェに向う。
着くなり皐月さんは、いつものやつと叫ぶ。
「あ゛!? たまには自分で作れ」
「お客さんに言う? それ?」
「だからテメェは客じゃねぇ」
「いいじゃん、金出すんだから」
静かな空間には合わない舌打ちが鳴り響いた。
「っで? オススメか?」
「あ、はい。今日のオススメはなんですか?」
「ベーコンエッグサンド」
「あ、それでいいです」
随分と庶民的なものがオススメだなぁと思った。
もはや定位化したカウンターに座り、前を向くとテラコさんがいた。
「やっほ、時雨ちゃん」
「あ、どうも」
って私が言いたいのはそういうことじゃない。
「休みなんですか」
「うん!」
とても嬉しそうなのだが、何故手伝いをしているのだろう。
「時雨ちゃんはコーヒーと紅茶どっち?」
「あ、紅茶で」
「ホットでいいわね」
「はい」
「レモンとミルクは?」
「レモン下さい」
「好きな銘柄ある?」
「いや、特に」
「あらそう」
テラコさんは先ず皐月さんにコーヒーを出して後ろを向いた。
皐月さんはそれを一口飲んで、ホットため息をつく。
「いやぁ、流石テラコさん。飲み物はテラコさんだねぇ」
「おい! うるせぇぞ!」
厨房の方から声が飛んでくる。
「そうだろ土門! アンタの入れるコーヒーは酸っぱくて飲めやしねぇよ!」
「知らねぇよ!」
「いやいや、知らないとか。自分で飲んで、マズっ! ってなったの誰よ?」
「ったく、グダグダ言ってるとホワイトソース乗っけんぞ!」
「は! かけられるものならかけて見なさい!?」
私の目の前に紅茶と角砂糖が入った瓶と、輪切りのレモンとスプーンが乗っているお皿が出てきた。
「まだ熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます」
湯気が黙々と立ち上がっている。
香りがなにやら独特だ。
甘ったるいっていうか、アロマの香りというか……
なんていうか……、ストロベリー的な香り?
そこに私は角砂糖を2個入れて、溶けるまで掻き回し、そのあとでレモンを入れた。
黙々と出る湯気は、なんだか私をバカにしているようだった。
飲めないだろ?
こんな高貴な飲み物。
って暗に思わせられる。
熱いと言われたのでゆっくりとカップを持ち上げて口をつけ傾け、確かに少しだけ熱い紅茶を飲んだ。
「どうかしら?」
その問は私には苦痛だ。
なにせ、紅茶とか詳しくない。
だから、美味しいかどうかなんてわからない。
「これ、ストロベリーの香りがするやつなのよ。味は普通の紅茶と同じだけど、やっぱりこういうのは香りを楽しむものよねぇ」
だ、そうだ。
はぁ、やっぱりよくわからない。
とにかく、
「美味しいです」
「私は嫌いだけどね」
なぜそんなものを飲ませたのだ!!
騒がしい空間。
否、賑やかな空間。
目の前に出てきたサンドイッチ。
オシャレに飾りつけられている。
皐月さんのオムライスは、本当にホワイトソースがかけられていた。
軽くしょんぼりしている気がする。
笑った。
面白かった。
これが永遠につづけば苦悩しないで過ごせるのかもしれないけど。
上手くいかないから今私は苦悩しているのだろう。