4、
なんだかわからないけど、ライブが終わってその打ち上げに参加させられていた。
周りの人たち、誰だか全く知らない人たちはガンガン生ビールを飲んでいるが、私は無難にオレンジジュースだけを飲んでいた。
私をこの場に連れてきた柘植くんは年輩の人たちと話していた。
現状を例えるなら砂漠に投げられたウサギ。
まだ自分をウサギに例えられるほど冷静だった。
「ねぇねぇ〜。君さぁ、美晴の彼女〜?」
そう私の肩に手を回して酒臭い息で話しかけて来た柘植くんのバンドのキーボードの人。
「ち、違いますよ!」
私は酒臭いその顔からなるべく離れてそう言い返した。
「えぇー。彼女でしょ? 認めちゃいなよー。その方が楽しいからさぁー」
楽しいってなんだ。
「こら、テラコさん! 女の子いじめちゃダメだろ」
キーボードの女性は柘植くんのバンドのボーカル兼ギターの人に引きはがされ、人差し指で頭をペンペン叩かれていた。
「いじめてないしぃー。恋バナしたたんだよ、コ、イ、バ、ナ! 男子禁制なんだぞ!」
「いやいや、そういうことじゃなくて、困ってるでしょ」
「困ってないよー、ビールには困ってるんだけどね」
「はいはい、もう飲まないでね。また道で吐くんだから」
「吐いてねぇしぃ」
「わかったから、大人しく座ってて」
男性はテラコさんと呼ばれた女性を私から離れた場所に座らせて空のジョッキを持たせていた。
そうして、また私のところに向かってきていた。
「ゴメンネ。テラコさん酔うと絡み方雑になるからさ」
彼は短い黒髪で柘植くんと比べると清潔感がある。
「あ、僕セラって呼んでくれればいいよ」
つけたされたような自己紹介だが、彼はそのあとよろしくねと言った。
「私は黄金沢時雨です」
「時雨さんか。珍しい名前だね」
またこの返し方だと思って私はオレンジジュースを飲んだ。
「まぁ、美晴はそろそろ挨拶終わると思うからちょっと待っててね。あれでもアイツ、ほかのバンドからも作曲頼まれてたりするから忙しいんだよ」
純粋に、へー、と思った。顔に比べてなかなかすごい人なんだなぁ。
確かに、あの時聞いた曲は、居心地のよさを感じるものだった。
「時雨さんは大学の友だちかなんかなのかな?」
「え、まぁ、そんなところです」
「やっぱりかぁ。始めてだよ。美晴が若い女の子を連れてくるの」
「なによーそれぇ! セラ! おいセラ! 私がおばさんとでも言うのかい!?」
地獄耳なのかテラコさんが大声で話しかけてきた。
「もぉう! うるさい! 酒臭い女性を総称しておばさんって言うんだよ!」
セラくんの声にこの空間にどっと笑いが起きた。
「そりゃぁなかなかひどい言い様だなセラ。それじゃここにいる女性みんなおばさまになっちまって色がなくて困る」
「僕よりひどいこと言ってますよドモンさん」
「あ、こりゃぁ失敬」
絶対そんなこと思っていない笑い方で謝った、ドラムの人。
この季節なのに黒のタンクトップに、髪には剃り込みでかっこよくバッテンが書かれていた。
「ドモン。飲むか?」
「おお! 気が聞くねぇ、シンちゃん!」
「当たり前だ」
言葉数は少ない、少しばかしふくよかな人はどうやらベースの人で、座ってジョッキ片手に枝豆を摘んでいた。
「時雨さんだったかな? オレンジジュースでいいかい?」
「は、はい」
こんな感じで、第一印象はなかなかひどかった。いろんな意味で。